"317号室の隠し壁" 第9話
ただ1つ、玄関に向かう壁に、赤い液体で文字がかれていた。
「佐藤刑事。私はあなたが私を見ているのを見ていた。ゲームは面かった。だが聖堂は倒れる。しいものを建てなければならない。できるものなら、私を見つけてみろ。の壁もまだ飢えている」
田医師が現で簡易検査をった。
「血液です。しい。数以内のものとわれます」
佐藤の指先がたくなった。
アパートのクローゼットからは、破損したノートパソコンが見つかった。浴のタイル裏からは、所をき込んださなノートが発見された。
そこには、静岡だけでなく、本各のホテルや期滞施設の所が並んでいた。
サイバー担当がノートパソコンから復元したデータは、さらに恐ろしかった。
過の犯記録。
写真。
映像。
被害者のリスト。
そして「未来」と名付けられたフォルダ。
そこには、最撮された女性たちの監写真が保されていた。
空港、駅、ホテルのロビー、角。
まだきている女性たちが、すでに選ばれ、観察されていた。
そのに、佐藤自の写真があった。
警察署をる彼女を、の向かいから撮ったものだった。
画像には、たった1語のタグが付けられていた。
「価値あり」
は画面を見つめたまま、い声で言った。
「彼は、あなたを狙っています」
佐藤は自分の写真を見つめた。
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恐怖はあった。
だが、それよりく浮かんだのは、ホテルの壁のから見つかった3の顔だった。
田弓。
本京子。
鈴。
そしてに並んでいた、名を取り戻すのを待っていた女性たち。
佐藤は静かに言った。
「来るなら来ればいい。私は、そのまでに彼の隠れ所を全部なくす」
黒田智弘の捜索は、静岡県を越えて広がった。
顔写真は全国の警察に共され、ホテル、旅館、期滞施設、古いアパート、解体予定の建物まで確認対象になった。黒田が残した所録に記された所には、次々と捜査員が向かった。
だが、黒田智弘は見つからなかった。
彼は40く、社会の隙に潜み続けていた男だった。
現払い。
偽名。
期滞。
古い建物の構造。
に記憶されないち振るい。
彼はそのすべてを使って、まるでのように消えた。
ホテル・スカーレットローズは、寒い11の朝に取り壊された。
佐藤はしれた所から、解体作業を見守っていた。
かつてピンクだった壁が崩れ、窓ガラスが砕け、コンクリートがとなって空へいがる。何も秘密と苦しみを抱えていた建物は、自分自のへ沈むように崩れ落ちた。
田弓、本京子、鈴の遺体は、族のもとへ戻された。
28ぶりの帰還だった。
恋を待ち続けた男。
娘の答えをらないままくなった母。
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退職まで使って娘を探し続けた両親。
彼らのは、決して元には戻らない。
それでも、3はようやく「消えた」ではなくなった。
名を持つ者として、族のに戻ることができた。
から見つかったの女性たちについても、元確認がめられた。32の顔、32の。方届がていた者もいれば、誰にも探されていなかった者もいた。
佐藤は、そのすべてに名を戻すことを決めていた。
ある夜、佐藤は県警本部の未解決事件資料で、スカーレットローズ事件のファイルを閉じた。
事件は解決した。
なくとも、1996915にホテルから消えた3については。
だが、黒田智弘はまだ捕まっていない。
彼はどこかにいる。
別の町のホテル。
古いアパート。
誰も気に留めない廊。
無だとわれている建物の。
佐藤は席をち、窓のを見た。夜ののが静かに揺れている。
彼女はもう、ホテルの廊を見るたびに、その奥の壁を像するようになっていた。
メンテナンス作業員の制を見れば、背のい痩せた男のがをよぎる。
古い建物のを通れば、その壁が何を覚えているのか考えてしまう。
林圭が言っていた言葉が、今になってく胸に残っていた。
「この事件が私にしたことを、君にまでさせないと約束してくれ」
佐藤はその約束を守れなかった。
いや、最初から守るつもりなどなかったのかもしれない。
3の客乗務員の事件を追ったことで、彼女はさらにきなを見つけてしまった。
そしてそのは、今、彼女のに気づいている。
机のには、黒田智弘の写真が置かれていた。
60代の男。
んだはずの男。
壁を聖堂と呼び、のを記品のように封じ込めてきた男。
佐藤は写真を封筒に入れ、ファイルに戻した。
だが、それは終わりではなかった。
次のがかりへ向かう準備だった。
翌朝、佐藤はとともに、黒田の所録にあった次の所へ向かった。
の窓のには、の町が朝のを受けて静かに広がっていた。沿いのホテル、古い商、坂の途に建つアパート。が流れ、泊まり、っていく町。
そのどこかに、まだ誰かの記憶をべようとする壁があるのかもしれない。
佐藤はハンドルを握るの横で、資料ファイルをいた。
黒田智弘はまだ逃げている。
だが、彼が残した壁は語り始めた。
そして度語り始めた壁を、佐藤美咲は度と黙らせるつもりはなかった。
ホテル・スカーレットローズから始まった28越しの真相は、3の女性の名を取り戻した。
しかし、佐藤にとってそれは終わりではない。
壁が飢えているのなら、その飢えを断ち切る者が必だった。
その役目を引き受ける覚悟を、彼女はもう決めていた。
― 完 ―