"霧の峠に消えた後継者" 第9話
お兄ちゃんが幸せなら、それでいいんです」
沢田は腕計に目を落とした。
針は、まさに効が成する刻を指そうとしていた。
そして、その刻が訪れた。
どこかくでを告げる鐘の音が、かすかに響いたような気がした。
これで、たとえ何かの罪があったとしても、もう誰も法で裁くことはできない。
けれど、そもそもここには、法で裁くべき罪などなかったのかもしれない。
あったのは、1の青の願いと、1の男の沈黙、そして妹のい苦しみだった。
、佐子の元には、のさな港町で初老の本の主が静かに暮らしているという、確かな消息が届いた。
けれど佐子は、その町へ駆けつけようとはしなかった。
せっかくに入れた兄の静かな暮らしを、乱したくなかったのだ。
兄が自由に、穏やかにきている。
それをっただけで、もう分だった。
効が成したそのの夕暮れ、沢田は勤めげた刑事の職を静かに退いた。退職のが、偶然にもあの事件の効のとなったのだった。
警察署をると、ではなくの夕が町を柔らかなに染めていた。
沢田はふとち止まり、空を見げた。
15く喉の奥に刺さっていたさな棘。その棘が、今ようやくすっと抜けていくのをじた。
総郎はきていた。
自分ので、自分のを選び取ってきていた。
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事件は、誰かが命を奪われたしい事件ではなかった。
1の青が、ようやく自由になれた。
そういう物語だったのだ。
沢田は10ではなく15の、あのの峠をいした。
いのにぽつんと止められていた、主のいない。
あの、駐所の巡査はこう言った。
まるで自分からをりて、どこかへ歩いていったようだ、と。
老巡査の素朴な見ては、正しかったのだ。
がを隠したのではない。
1の青が、自らので、そののからしいへと歩みしたのだった。
沢田はゆっくりと駅へ向かって歩き始めた。
夕のを、買い物かごをげた々がき交っていた。商からは、いつもと変わらぬ呼び込みの声が響いている。
何でもないの暮らしの匂い。
総郎があれほど焦がれた、ごく普通の穏やかな々。
今頃、の港町でも、こんなふうに静かな夕暮れが訪れているのだろうか。
沢田の取りは軽かった。
15というい歳をかけてようやくたどり着いた真実。
それは誰かを罰する結末ではなく、1ののささやかな幸せを、そっと見届ける結末だった。
のれた峠を、かつて1の青が自由を求めて歩いてっていったように、沢田もまたい刑事のを抜け、穏やかな夕暮れのをゆっくり歩いていった。
座の町には、しい夜のかりが1つ、また1つと灯り始めていた。
総郎が残した荷は、もう誰の肩にもなかった。
ただい港町のさな本で、1の男が今も静かに本を並べている。
その事実だけが、く閉ざされていた事件の最に残された、たった1つの救いだった。