"志摩の海に沈んだ母" 第1話
1994715、県志摩半島のさな漁で、1の女が姿を消した。
島梅野、70歳を過ぎても素潜りの腕が良いと評判の女性だった。朝の潮を見計らい、女たちは潜具をにつけ、1また1とへ入っていった。そのも、いつもと変わらない朝になるはずだった。
夜けのは静かだった。波は荒れておらず、空もるかった。女たちは慣れたつきでへ入り、それぞれの持ちへ散っていった。
だが、がくなっても、梅野だけが面にがってこなかった。
仲の女たちは面で息をえながら、何度も周囲を見回した。
「梅野さんが見えないね」
1がそうに言った。
「さっき、あの岩の辺りで見たのに」
女たちは鏡越しにの底をくまなく探した。だが、梅野の姿はどこにもなかった。のに浮きもなく、潜具の切れ端さえ見つからない。
通報を受けた保部がし、捜索は3続いた。潜士が底を探り、元の女たちも自らんで加わった。けれど結果は同じだった。
島梅野は、煙のように消えていた。
当、彼女には3の息子がいた。男の島健は京の会社に勤め、次男の島信夫は阪で商売をしていた。末の息子、島正斗だけが島に残り、母のくで暮らしていた。
警察が族を呼んで事を聞くと、正斗はい表で答えた。
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「母は1で漁にたんです。の晩も、いつもと変わりませんでした」
健と信夫も、同じように言った。母は元気だった。変わったことはなかった。誰もがそう話した。
ただ1つ、兄弟のに財産をめぐる張りいがあったことだけが、捜査記録に残された。
梅野は涯を女として働き、島の町にいくつかを持っていた。しかし、それだけでは事件を解くことはできなかった。
1994の島には監カメラもなく、携帯話を持つもまれだった。捜査は、々の記憶と証言に頼るしかなかった。
やがて事件は迷宮入りとなった。
そして、16が流れた。
警察はまず、梅野と緒にへていた女たちから話を聞いた。
女に集められた4の顔には、と疲労がにじんでいた。警察官が帳をき、静かに尋ねた。
「梅野さんは、何頃へ入りましたか」
の川辺という女が、膝のでを握りしめながら答えた。
「夜けの530分頃だったといます。私たちと同じくらいでした」
「最に見たのはいつですか」
「6頃です。の磯の辺りで見ました。磯笛も聞こえました」
磯笛とは、女が面にがって息を吐きす独特の音だった。その音が聞こえたということは、なくとも6頃までは梅野がきていた能性がかった。
「そのは見ていません。私たちも、それぞれ潜るのにでしたから」
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の女たちの証言も似ていた。夜けに緒にへ入り、途で姿を見た者もいた。だが、いつから見えなくなったのか、正確に分かる者はいなかった。
「梅野さんの潜りの腕はどうでしたか」
警察官が聞くと、川辺はすぐに首を横に振った。
「ここでも指折りです。は取っていましたけど、若い者より達者でした。あのが簡単に流されるなんて、考えにくいです」
保部は、潮の流れが速い域だったことを理由に、事故の能性も考えていた。で気を失えば、くへ流された能性がある。説としては自然ではなかった。
しかし、どこか腑に落ちない。
警察は族への聞き取りを始めた。
まず呼ばれたのは、末子の島正斗だった。当35歳。町でさな堂を営んでいた。
「お母さんと最に話したのはいつですか」
「714の夜9頃です。夕飯の、し話しました」
「どんな話をしましたか」
「したことはありません。はにるからく寝ると言っていました」
正斗の声は淡々としていた。警察は表を見たが、すぐに怪しいと断定できるものは見えなかった。
「お母さんの体調はどうでしたか」
「良かったです。病院にかかることもほとんどありませんでした」
「兄弟との仲はどうですか。財産のことで言い争ったことは」
その瞬、正斗の顔がわずかにこわばった。
「財産なんて、何があるんですか。母が持っているのは畑がしと、あのくらいです」