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"結婚23年目、35万円を渡した妻が持ち帰ったもの" 第12話

これからの帰り

それから、私たちは何度かあいのを訪れた。母親は、私たちが来るたびに野菜や漬物を持たせてくれた。初めのうちは慮していた私も、今では「ありがとうございます」と受け取るようになった。

は、母親ので過ごすを楽しみにするようになった。母親と昔の写真を見たり、所のに挨拶したり、川沿いを歩いたりする。帰省のたびに、母親からしい話を聞いて帰ってくる。

ある、は母親から父親の記を見せてもらった。そこには、娘が結婚したのことがくかれていた。

「が嫁いだ。あの子はしっかりしているから丈夫だろう。でも、帰りたくなったらいつでも帰ってくればいい」

はその文を何度も読み返した。父親は、娘に直接そう言えなかったのかもしれない。けれど、記には残していた。

「お父さんらしいね」

はそう言って、記を閉じた。私は隣で、彼女のを握った。

母親は、今も元気に暮らしている。より畑はさくなり、くまで歩くことは減った。それでも、が来ると台所にち、昔と同じように事を作ってくれる。はそのたびに、母親と緒に野菜を刻む。

私も、以より母親と話をするようになった。父親のことを聞き、の昔の様子を聞く。母親は、がらなかった話まで聞かせてくれる。

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そのたびに、妻と過ごしたのに、私のらない景がいくつもあったと気づかされる。

ある帰り、助席のが、窓のを見たまま言った。

「あなた、あの、万円を渡してくれたでしょう」

「ああ」

「嬉しかったわ。でもね、おをもらったことだけじゃなくて、帰ってきていいって言ってくれたのが嬉しかったの」

私はハンドルを握り直した。

「そうか」

「ずっと、のことを置いて帰っていいのか分からなかったから。あなたがそう言ってくれた、やっと帰っていいんだってえたの」

「もっとく言えばよかったな」

「そうね。でも、これからは言ってくれるんでしょう?」

「ああ。帰りたいは、いつでも言ってくれ」

は笑った。

「じゃあ、今度はもうしくいようかな」

「そうしよう。お母さんが元気なうちに、何度でもこう」

の向こうに夕が沈み、の先がしずつ暗くなっていった。私はヘッドライトをつけ、隣のに声をかけた。

「また来ような」

「うん。今度は、もっとゆっくりね」

その返事を聞きながら、私はアクセルを踏んだ。

これから先、私たちに残されたがどれほどあるのかは分からない。だからこそ、の「帰りたい」というさな願いを、もう聞き逃したくなかった。く緒にいることと、相を分かっていることは同じではない。

切なが何も言わずに笑っているこそ、そのにを傾ける。私はようやく、そのことをり始めていた。

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