"フクと小さなおにぎり" 第12話
ただいま、フク
玄関につゆいを見つけたフクは、まっすぐ元へ駆け寄った。以なら、玄関の音に驚いて隠れていたはずだ。けれど、そのはゆいのに何度もをすり寄せ、喉を鳴らしていた。
「フク、ただいま。もう病院にかないよ」
ゆいはしゃがみ込み、フクの背をそっと撫でた。フクは逃げず、ゆいのに体を寄せている。由佳も俺も、その様子を見ながら、ようやくに族が戻ってきたとじた。
その夜、久しぶりに族とフクが、同じ卓のそばにそろった。ゆいはさな子に座り、フクは隣の台に置かれた皿のにいる。由佳が夕飯を並べ、俺はそれぞれの皿を確かめた。
「いただきます」
みんなでをわせる。ゆいが先にべ始めると、フクも皿にをつけた。何度も顔をげて族を確かめることはなかった。ゆいも、由佳も、俺も、みんなそこにいる。フクは、もう確かめなくてもいいとえたのかもしれない。
ゆいは自分のご飯をべ終えると、フクの皿をのぞき込んだ。
「フク、全部べたね」
フクはゆいの指先にを寄せる。ゆいは嬉しそうに笑った。
それからがたち、ゆいは歳になった。フクは相変わらず、族の卓のそばでご飯をべている。窓辺でなたぼっこをしたり、俺の元で眠ったり、ゆいが絵本を読む隣で丸くなったりする。
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らないが来れば隠れてしまうが、のでは落ち着いて過ごせるようになった。
ある、ゆいがフクの首を撫でながら聞いた。
「ねえ、フクはどうしてフクって名なの?」
「幸せが来るようにって、おのがつけてくれた名なんだよ。幸福の福から、フク」
「じゃあ、フクが来てくれて、うちに幸せが来たんだね」
「そうだね」
俺はそう答えた。本当に、フクがうちに来てくれたことで、族の暮らしは変わった。事のを切にするようになり、みんなで同じ所にいることをより識するようになった。
でも、フクに「べても丈夫」と教えてくれたのは、ゆいだった。さなおにぎりを持って隣に座り、何も言わずに緒にべた。あののゆいは、べることを怖がるフクに、ひとりじゃないと伝えていた。
フクの怖さが、きれいになくなったわけではない。急な物音に驚くもあるし、誰かがちがれば顔をげることもある。そんなときは、俺たちは声をかける。「おを取りにくだけだよ」「すぐ戻るからね」。フクが落ち着くまで、そばにいる。
ペットショップの奥で「特価品」の札をつけられていた猫は、今、族のいちばんくでご飯をべている。今も、フクの皿からさな音が聞こえる。カリカリ、カリカリ。ゆいは隣で笑い、由佳は器を並べ、俺はその音を聞きながら、フクがここにいてくれることを嬉しくう。
フクの名には、幸せが来るようにという願いが込められていた。あの、ゆいが握ったさなおにぎりは、フクがもう度のそばでべるための、さなきっかけになった。今では、フクがご飯をべる音が、うちの卓にある当たりの音になっている。それが、俺たち族にとって何よりうれしい。