"姑から受け継いだしゃもじ" 第12話
同じ台所にって
数、ふみは正のを訪ねた。麻は仕事を続けながら、子育てをしている。のには、保育園のかばんや絵本が置かれ、ふみが暮らしてきたとはまた違うにぎやかさがあった。
「お義母さん、もうお呂を沸かしてあります。先に入ってください」
麻が言った。
「あなたが先に入りなさい。仕事と子どもの世話で疲れてるでしょう」
「でも、お義母さんがくから来たんですから」
「私は丈夫。好きな順に入ればいいのよ」
ふみは笑って、麻の肩にを置いた。自分が嫁に来たに、としから「このの台所は私が持っている」と言われたことを、ふみは今でも覚えている。厳しい言葉だったが、としにはとしなりの事があった。姑としてを守り、族をべさせ、決められた暮らしを続けてきただった。
ふみは、麻に同じ言葉を言わなかった。の習慣を伝えることはあっても、すべてを自分のやり方にわせてほしいとはわない。麻には麻の活がある。これからのの形は、で相談して決めていけばいい。
「お義母さん、これ、使ってもらえますか」
ふみは、古いしゃもじを持ってきていた。としから受け取り、ずっと使ってきたものだ。麻は、傷のついた持ちを見つめた。
「事なものですよね?」
「そう。私が嫁に来たとき、姑から渡されたものなの」
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「それを私に?」
「でも、使わなくてもいいよ。これは、私がここまで暮らしてきた記みたいなものだから。あなたに渡したいのは、しゃもじよりも、ひとつだけ覚えておいてほしいこと」
ふみは、しを置いて続けた。
「こので困ったことがあったら、するに言ってね。族だからって、何でも黙って引き受けなくていい。私も、あなたの話を聞くから」
麻は、目をし潤ませた。
「ありがとうございます。私も、困ったことがあったら相談します」
「うん。そうして」
は緒に台所へち、夕飯の支度を始めた。麻が野菜を切り、ふみが鍋を用する。つけは、ふみが教えたものに麻の好みが加わっていた。昔からのを残しながら、族にわせてしずつ変わっていく。
料理ができると、孫が台所へってきた。
「おばあちゃん、おなかすいた!」
「もうすぐだよ。を洗っておいで」
孫は返事をして、洗面所へ駆けていった。ふみと麻は顔を見わせて笑った。
ふみが歳で嫁いだ、誰とどんな暮らしをするのか、何も分かっていなかった。台所のことも、おのことも、自分の居所さえも、しずつ覚えていった。姑のとしとは、何度もぶつかった。けれど、同じで暮らし、子どもを育て、を越すうちに、互いのことをっていった。
としから受け取ったしゃもじは、今もふみのの台所にある。
使うたびに、若い頃のとしのことをいす。厳しい姑の顔だけでなく、の夜に茶を差ししてくれたや、テレビので緒にんだ笑顔も浮かぶ。
「お義母さん、見をお願いします」
麻が皿を差しした。
ふみはひとべ、うなずいた。
「おいしいよ。あなたのになってきたね」
麻は照れくさそうに笑った。ふみは、その顔に、かつての自分をねた。
のは、誰かのものではない。作るが変わり、暮らしが変わるたび、しずつ形を変えて残っていく。ふみはそのことを、いをかけてったのだった。