みかん小説
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"昭和27年、戦争未亡人が開いた小さな店の50年" 第5話

戦公報を差しした

専売公社の窓の空気は、先だというのにどこか肌寒かった。

私はパイプ子に浅く腰掛け、膝のでたくなった両をぎゅっと握りしめていた。

机を挟んだ向かい側で、配の係官が、私が提した類の束を枚ずつ指を舐めながらめくっていく。

民票、の謄本、恰好なきの図面。

そして最に、の呂敷から取りした、あのつ折りの片を差しした。

「こちらが……戦公報でございます」

「はい、お預かりします」

係官は両で片を受け取ると、静かに広げた。

そこに並ぶ夫の姓名、部隊名、、そして方の島の名を、指先でなぞるように確かめていく。

そして、類から顔をげ、私の目をじっと見つめた。

何か言われるだろうか、と私は構えた。

『お若いのにお気の毒に』とか、『変なご苦労をされましたね』とか、通り遍の同の言葉を投げかけられるのではないかと、喉の奥を張らせていた。

けれど、係官は何も言わなかった。

「確かに確認いたしました。原本はお返しいたしますので、こちらの控えを申請に添付させていただきます」

そう言って、丁寧に折り目を正した公報を、両で私へと押し戻してくれた。

それだけだった。

袈裟に憐れまれることも、な未として腫れ物に触るように扱われることもなかった。

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その淡々とした事務な触りが、当の私には何よりもありがたかった。

戦争が終わって、すでに以の歳が流れていた。

町を歩けば、夫をくした女や、父親を奪われた子どもなど、のあちこちに溢れかえっていた。誰もがにさないだけで、それぞれの胸の奥に同じような黒い穴を抱えてきていたのだ。

だからこそ、これ見よがしに同されるたびに、自分だけがいつまでもあの忌まわしい過の濘から抜けせず、憐れみを乞うてきているような惨めさに苛まれるのだった。

ただの「活者」として扱ってもらえたその瞬、私の肩の荷がふっと軽くなったような気がした。

申請を済ませてしまえば、あとは決定の通を待つよりになかった。

許がりるのか、それとも却されるのか。結果がるまでにどれほどの数がかかるのかも、定かではなかった。

私はそれまで通り、昼は畑にて芋の蔓を引き、夜は暗い球ので内職の針をかし続けた。

息子の朝餉を作り、学へ送りし、夕暮れには井戸端で米を研ぐ。

から見れば、私の暮らしは何つ変わっていなかった。

けれど、私の内側の景は、確実に塗り替えられつつあった。

夜、針穴に糸を通す、以のように「この活がいつまで続くのだろう」

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という絶望な息苦しさをじることはなくなっていた。

『もし、あの窓がいたなら』。

そのさな希望のが、私の胸の底を静かに温め続けていたからだ。

通りに面した畳を掃除しながら、私はで寸法を測った。

ここにガラスケースを置いて、あちらの壁には煙の棚板を渡そう。

窓のには、勇が宿題を広げられるようなさな箱でも置こうか。

母はそんな私を見て、呆れたように笑った。

「まだ許の通も来てないうちから、取らぬ狸の皮算用だねえ」

「いいじゃないか、考えるくらいは自由だよ」

「そのうち、本当に壁を鋸でくり抜いちまうんじゃないだろうね」

「まだ切らないよ。……でも、さんには話を通してあるんだ」

「ほらごらん、やっぱりね」

母とで、久しぶりに声をてて笑いった。

正式な通が届いたのは、桜の蕾がほころび始めたの終わりのことだった。

郵便配達の自転がのに止まり、「神さん、役所から事な封だよ!」と声をげた。

私は台所からへ駆けり、受け取った封筒を両で握りしめた。

勇はまだ学から帰っていなかった。

静まり返った暗い茶ので、私はしばらくの、茶封筒の表きを見つめたままち尽くしていた。

もし、許の通だったら――。

また、あの終わりの見えない夜の針仕事へ逆戻りするだけだ。

これまでだって何も耐えてきたのだから、元の暮らしに戻るだけのことじゃないか。

必にそう言い聞かせたけれど、封を切る指先は刻みに震えていた。

ハサミを入れ、つ折りのを引きす。

最初の。

『煙売指定ノ件』。

本文を目で追う。

……指定ヲ許ス。

「……通った」

声が漏れた。

誰もいない部ので、もう度、今度はしきな声で呟いた。

「通ったんだ……!」

そのの夕暮れ、ランドセルを揺らして帰ってきた勇が、にがるなり私の顔を覗き込んできた。

「母ちゃん、どうしてそんなにニコニコしてるの?」

「私、笑ってるかい?」

「うん、すっごく笑ってる」

私は畳のに広げてあった公社の通を指差した。

「勇、うちで煙ができることになったよ」

勇は瞬、目を丸くしてぽかんとしていた。

そして、次の瞬に声で尋ねた。

「じゃあ、キャラメルも売っていいの!?」

「だから、うちは煙さんだって言ってるでしょ」

「ちぇっ、つまんないの。僕、煙なんて吸えないのにさ」

屈託のないその返事に、私は声をげて笑った。

数、町のさんが鋸と槌を抱えてやってきて、に面した壁を角くくり抜いた。

、暗がりのに閉ざされていたがの畳に、の眩い陽が、埃の粒をきらきらと輝かせながら崩れ込んできた。

私はそのを浴びながら、のでく誓った。

このさな窓をけて、私はもう度、自分のでを歩み始めるのだ。

どんなに細々とした商いであっても、もう度と、誰かに縋り付いて泣いたりはしない。

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