"母の葬儀写真に現れた女――銀の花に隠された秘密" 第12話
写真に残った枚の
母のが過ぎたころ、恵は千恵子と緒にへ戻った。
その、私はのを通り、がの奥で話す様子を見た。千恵子は昔の話を方に語らず、恵もすぐに許すようなことはしなかった。は互いの現について話していた。恵の夫はにくなり、息子はで暮らしている。千恵子はで暮らし、毎朝所の公園を歩いている。
話題は、過だけではなかった。好きなべ物、膝の痛み、のの仕入れ。い空を埋めるには、壮な告より、今の暮らしをることが必なのかもしれない。
私は声をかけずに通り過ぎた。扉のガラスに、母の姿が映ったように見えたが、もうち止まらなかった。のに母が割り込まないようにしたかった。は毎週曜、閉にだけ会うことにした。母と娘になれるか、親子と呼べるかは、まだ決めない。会うことだけを続けると約束した。
私は修司と、母のアルバムをデジタル化した。らない親戚や、母が通った施設の子どもたちが写っている写真もあった。写真の裏に、母がずつ名をいていた。私は、母が涯に何もの子どものことを配していたとった。
ある晩、理が葬儀の集写真を送ってきた。
「これ、に見たときより何か違う」
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写真をくと、母の遺の隣にっていた女が、しだけはっきり写っていた。黒い、ののブローチ。だが、女の顔はもうぼやけていて、誰にも似ていない。
のブローチには、枚のびらがそろっていた。
私は写真を拡し、女の元を見た。畳のに、はなかった。
その写真を恵に見せると、彼女はしばらく黙っていた。
「このは、私たちの誰でもないのかもしれない」
「どういうこと?」
「母が会えなかったたちを、私たちが勝にの姿にしたのかもしれない。あるいは、本当に誰かが来てくれたのかもしれない。どっちでもいい気がする」
私は、恵の言葉にうなずいた。
私には今も、見えないものが見えることがある。誰もいない廊にがつ。くなったの声が、古い物から聞こえる。けれど、それが霊なのか、私の記憶が作ったものなのかは分からない。
母の葬儀で見た女が誰だったのか、私は今も答えを持っていない。
ただ、あの女が現れたことで、私たちは母の秘密をり、恵と千恵子は会うことができた。もしあれが偶然やい込みだったとしても、写真のの女が私たちを真実へ導いたことは変わらない。
母のは売却した。最に鍵を返しにった、私は玄関で度だけ振り返った。
引っ越し業者が運びした具の跡が、畳に角く残っていた。
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台所の壁には、母が毎貼り替えていたカレンダーの跡がある。古い湯のみは、恵が持ち帰った。い湯のみは千恵子が預かり、がもうし打ち解けたら緒に使うと言っていた。
部を空にしたあと、理が最の写真を撮った。何もない居に、夕方のが差し込んでいるだけの写真だった。帰りので確認すると、窓辺にさながつ写っていた。私は拡せず、そのまま保した。
すべてにを見つけようとすると、見えたものに自分の願いをねてしまう。母のことをうと、私はまだその境目を学んでいる。窓ガラスに、母が映っていた。母は、若いころのようにし嫌そうな顔をして、それからさく笑った。
その隣には、恵と千恵子が並んでっていた。
私は目を閉じた。
次にけたとき、窓には夕焼けしか映っていなかった。
それから半、恵から枚の写真が届いた。の先で、千恵子とで撮ったものだった。のには、いリンドウが飾られている。写真の裏には、恵の字でくかれていた。
『族になるかどうかは、これから決めます。でも、もう秘密ではありません。』
私は写真を仏壇の横に置いた。
その夜、部のかりを消すと、写真のガラスにのが瞬だけ浮かんだ。
びらは、枚。
そして、誰もいない部の奥から、母の声が聞こえた。
「今度は、ちゃんと数えてね」
私は振り返らなかった。
数えたくないのではない。
もう、誰かを秘密のに置きりにしたくなかった。
には、見えないものが見えることがある。
けれど、見えたものが何なのかを決めるのは、いつだってきているたちなのだ。
母がくなってからが過ぎた。恵は母の命にを持ってきたが、仏壇のではをわせるだけで、何も話さなかった。千恵子は隣に座り、で母の好きだったお茶をんだ。私はしれて、その様子を見守った。族の形は、血縁や戸籍だけで決まるものではない。けれど、言葉にしなかったことをなかったことにしても、形はわない。
その夜、私は母の写真を見ながら、最の留守番話をもう度再した。今度は母の声が聞こえなかった。録音されたのは恵の声だけ。それでよかったのだとう。母の返事がなくても、恵は自分の言葉を母へ届けた。きているが、くなったに何を伝えるかは、返事の無とは別のことだった。私は再を止め、話の源を抜いた。
理は、私がこの話を文章に残すなら、どこまでくのかと尋ねた。私は、恵や千恵子の名を変え、本たちが望まない細部は伏せるつもりだと答えた。理は「議な話として広めるに、族の話として切にして」
と言った。私は、その言葉を最のまで覚えておくことにした。
私は名を変えてくときも、彼女たちの痛みを軽く扱わないと決めた。
私はその夜、久しぶりに母のを見なかった。
(完)