"「嫁は廊下で寝ろ」私が二度と帰らなかった理由" 第16話
夜に帰れる
。
私は昼休みに役所へ婚届を提した。
窓の職員が類を確認し、「受理します」とく言った。
それだけだった。
結婚活が終わるには、もっと何かきな音がするものだとっていた。
けれど実際には、枚のが受理されただけだった。
私は旧姓の林瀬へ戻った。
仕事では結婚もずっと林瀬を使っていたため、名刺も会社ホームページも変える必はない。
元夫の孝介は暮らしを続けた。
度だけ話があり、「朝、自分で洗濯を回してから会社へってる」と話した。
最にぽつりと言った。
「あの布団、俺が運んだんだよな」
「そうよ」
私はそれだけ答えた。
話を切っても、もう胸はきく揺れなかった。
元義父は定まで仙台で勤務を続けることにしたらしい。元義母を迎えに戻るつもりもないと聞いた。
仕事では、私の会社と元義父の勤務先との取引はそのまま続いた。
、本社会議で度だけ同じ席になった。
義父は私を「林瀬社」と呼び、仕事の話だけをした。
会議、エレベーターできりになった、を向いたまま言った。
「元気そうでよかった」
私もを向いたまま答えた。
「はい」
それで分だった。
元義母は、あの戸建てにで残った。
孝介がまで使った畳も、私たち夫婦がく寝ていた畳も、今は誰も使っていない。
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末、義父から聞いた。
階廊の私の布団は、まだ片付けられていないという。
「マンションへ送ろうか」
そう言われたが、私は断った。
「私にはもうベッドがありますから」
義母は夜になると階廊のかりを消せないらしい。
、自分の布団が置かれた所。
そして、自分自ので嫁の布団を置いた所。
そこに今も、持ち主が度と帰らない布団が残っている。
がけた、度だけ真柴先の事務所を通して元義母からが届いた。
便箋枚。
震える字でいてあった。
《あの夜のことを毎晩いしています》
私は返事をかなかった。
ただ、読んだということだけ先から伝えてもらった。
やがてになった。
会社にはの入社員が入った。
末のある、私は遅くまで残っていた社員へ「お疲れさま」と声をかけてから会社をた。
マンションへ着いたのは過ぎだった。
玄関の鍵をける。
かりをつける。
遅い、と言うはいない。
蔵庫には自分で作っておいた夕飯がある。
湯呑みはつ。
洗濯物は、自分で畳んで自分の引きしへ入れる。
洗面台には、ひびの入った母の鏡をててある。
誰にも箱へ放り込まれない、私の棚だった。
曜の夜には、母が千葉から泊まりに来ることがある。
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に帰宅した私へ、母は決まって言う。
「お帰り。お疲れさま」
子供の頃、私が母へ言っていた言葉だ。
私は靴を脱ぎながら答える。
「ただいま」
ある夜、シャワーを浴びて寝へ入った。
カーテンの隙から向かいのビルのかりが細く差し込んでいる。
ベッドがある。
私のベッドだ。
横になって井を見ると、ふとあの夜の声をいした。
「嫁に部なんて贅沢なのよ」
あのは胸にく刺さった。
今は議なほどい。
私はしだけ笑った。
確かに、あのの部はいらなかった。
私には最初から帰る部があったのだから。
それに気づくまで、かかっただけだった。
「別ので寝ます」
あの夜、そう言えたのは、この所があったからだ。
そしてこの部を自分の力でに入れられたのは、私が何も働いてきたからだった。
母は昔、私に言った。
「働く女の帰りを『お帰り』って待ってくれるができるといいね」
待ってくれるがいない夜もある。
それでも今の私は、帰ってきた自分自に言える。
今もよく働いた。
お疲れさま。
ここがあなたのだよ、と。
私はを伸ばし、寝のかりを消した。
廊で眠る夜は、結局度も来なかった。