"「嫁には1円もやらない」義母へ、家族3人の決断" 第1話
回忌の法事と笑の宣告
「遺産は全部、実の娘であるひろみに渡すことにしたから。文句があるなら、今すぐこのからていっておくれ」
初の柔らかな差しが障子をく透かす畳の座敷に、義母・田久美子(歳)の乾いた声が酷に響き渡った。 カチリ、コツン。 のの黒檀の柱計が、無質な秒針の音を刻んでいる。 座卓のに並べられた料理は、まだ半分も減っていなかった。から私が昆布と鰹節で丁寧に汁を引き、里芋の方剥きをして煮含めた筑煮。朝に起きて腕を振るった鯛の潮汁、季節の菊をあしらったえ。 本は、のに歳の若さで急逝した義父・茂之(しげゆき)さんの、節目の回忌の法だった。
の夕方、いバケツとタワシを抱えて菩提寺の墓を磨きげたのも私だ。今朝番でへり、義父が好きだった菊とのリンドウを仏壇に活け、読経に訪れた職にお茶をおしし、集まった親戚への引き物を配したのも、すべて私だった。 その法が滞りなく終わり、夫の妹であるひろみ(歳)とその夫の慎さん、そして私たち族が座になって御膳を囲んでいた最、義母は唐突に塗り箸を膳の端に置き、唇の端を歪めて笑いを浮かべたのだ。
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「勘違いされても困るから、今のうちにハッキリ言っておくのよ。嫁にはね、円もやらないからね」 義母は座布団のでこれ見よがしに顎を反らし、私の顔をじっと見据えた。悪びれる様子など微もない。当たりの権利を愚かな部に言い聞かせるような、傲そのものの笑みだった。
「……母さん、法事の席で何て言い方をするんだ。やめろよ」 隣に座る夫の孝介(こうすけ・歳)が、く絞りすような声で窘めた。 だが、義母は息子の抗議などそよほどにもに介さず、を鳴らしてせせら笑った。 「何よ、本当のことでしょ? 血の繋がらない赤のに遺産を渡す親がどこにいるのよ。筋を通しているだけじゃないの」
座敷の空気が、シンとえ切っていく。 ひろみさんは居悪そうに線を落とし、夫の慎さんは膝ので両を組んだままのように押し黙っている。 そして私の膝の横では、歳になる息子の陽太(ようた)が、さなプラスチックの箸を握りしめたまま、そうに私と義母の顔を交互に見つめていた。さな掌が、怯えたように私のスカートの裾をぎゅっと掴んでいる。
だ。 このに入り、義母と同居を始めてから、丸という歳が流れていた。 朝番の湯の温度、義母の血圧の薬の管理、町内会の役員仕事、広な庭の入れ、そしてこののすべての冠婚葬祭。
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私は自らの休暇と眠を削り、こののの歯として、の狂いもなく庭を回し続けてきたのだ。 謝の言葉ひとつかけられたことはない。それどころか、仕えた結末が、夫と幼い息子の目ので浴びせられる「円もやらないからていけ」という卑た嘲笑だった。
私ので、張り詰めていた細い糸が、音もなく静かに千切れた。 りで鳴り散らしたい衝ではなかった。 ただ、どこまでも澄み切った、絶対零度の静寂が胸の奥底に広がっていった。
私はに持っていた湯呑みを、音をてずに畳のに置いた。 そして、義母の濁った瞳を真っ直ぐに見据えて、静かにをいた。
「かしこまりました。では、今すぐていきます」
「……え?」 義母のが、の抜けた形で半分いたまま直した。
「本に、荷物をまとめてこのをていきます」 私はもう度、寸分の揺らぎもない声で繰り返した。 義母はまだ気づいていなかった。 このをていく「荷物をまとめる」が、私だけではないという事実に。