"拾った財布で泥棒扱い――5万円の濡れ衣と反撃" 第10話
正しさが灯る所
スーパーで鮮な野菜と結の好きなハンバーグ用のひき肉を買い、アパートの階段をがる。
鍵をけてドアを押しけた瞬、廊の奥から勢いよくスリッパの音が響いてきた。
「お母さん、おかえりなさーい!」
「ただいま、結」
結が満面の笑顔で駆け寄ってきて、咲のエプロン姿の腰にぎゅっと抱きついた。さな体から伝わってくる、温かい体温とシャンプーの甘い匂い。それだけで、のすべての疲れがののように溶けっていく。
洗いを済ませ、キッチンにつ。
トントン、とリズミカルに玉ねぎを刻む音が、静かなリビングによく響く。テーブルでは、結が宿題の算数ドリルをいて鉛をらせていた。
「お母さん」
「ん? なあに?」
結が顔をげ、誇らしげに胸を張った。
「今ね、学の靴箱のところで、お友達の箱が落ちてたの」
包丁を持つ咲のが、ふと止まった。咲はゆっくりと振り返り、娘の顔を見つめた。
「箱が?」
「うん。踏まれそうになってたから拾ってね、すぐに先のところに持ってったんだよ」
「……そう。それから?」
「先がね、『結ちゃん、届けてくれてありがとう』って言ってくれたの。そしたら落とした男の子もってきてね、『切にしてたやつだったから、見つかって本当によかった!ありがとう!』って言ってくれたんだよ!」
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結の目が、キラキラとしたを放っていた。
「落とした、すっごく困ってたとうから。拾って届けて、本当によかった!」
咲の胸の奥底から、いものが込みげてきた。
界がしだけ滲むのを誤魔化すように、咲はしゃがみ込み、結のさなを両で優しく包み込んだ。
「偉かったね、結。本当によく届けてあげたね」
「えへへ……お母さんが言ってたもんね。『が見ていなくても、正しいことをしていれば絶対に丈夫』って!」
娘の屈託のない笑顔を見つめながら、咲はのでく、静かに謝していた。
もしあの。
黒田から棒扱いされた、恐怖に負けて泣き寝入りしていたら。
周囲のたい線に絶望して、会社から逃げしていたら。
自分は今夜、娘のこの澄んだ瞳を、どんな顔で見つめ返せばよかったのだろうか。
の世界には、理尽な嘘や、保のための悪が満ちている。正しいことだけをしていても、傷つけられ、孤させられる夜は必ずある。
しかし、それでも。
客観な事実から目を背けず、誠実に記録を残し、自分ので誇りくち続けるならば、真実は必ず悪のを突き破る。
そして何より、その姿を、子どもは必ず見ているのだ。
「結、今夜はハンバーグ、きく丸めようか」
「わーい! 私、お伝いする!」
さなが、咲ののにねられる。
窓のには、夕のに美しく灯り始めたのかりが広がっていた。
誰かが善で差ししたを、決して疑いや棒のにしてはならない。
その当たりで、けれど尊い世界の約束を、自分は守り抜くことができた。
温かいキッチンのかりの、母と子の笑い声が、希望に満ちたへと向かって、いつまでも優しく響き続けていた。