"消えた実印" 第15話
「おっしゃる通りです」
「でも、もしあのに戻っても、また持ちす?」
織はし考えた。
「今度は、お義母さんに話してから持ちします」
「私が信じなかったら?」
「由紀さんと弁護士を連れてきます」
「げさね」
「お義母さんは、るとの話を聞かないので」
文は眉を寄せた。
「元嫁に、そんなこと言われたくないわ」
「では、元姑にも、棒と言われたくありません」
2は顔を見わせた。
先に笑ったのは文だった。
織も笑った。
何でも言える関係になったわけではない。
今でも織が蔵庫を勝にけると、文は腹がつ。織も、文が薬をんだと嘘をつけば、本気でる。
正に何を作るかで見がわず、美への援助額でも何度か言い争った。
それでも以とは違う。
相のをすぐ悪と決めつけず、分からなければ聞くようになった。言われたくないことを言われても、そので関係を終わらせず、しを置いて話し直すようになった。
族だから分かりえるのではない。
分からないことを、分からないままにせず話し続けるから、関係が残るのだろう。
翌朝、文はで貸庫へ実印を戻した。
員が類を示し、署名を求めた。
文は内容をずつ読んだ。
以なら、細かい字は面倒だからと、相の説だけを聞いて印鑑を押したかもしれない。
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今は、分からない部分があれば何度でも尋ねた。
確認を終え、琥珀の実印をケースへ戻す。
庫の扉が閉まった。
自分の物を守ることは、誰にも触らせないことではない。
必なに助けを借り、それでも最は自分で決めることなのだと、文はった。
をると、織からメッセージが届いていた。
《梅の、確認しましたか》
文はを止めた。
朝は急いでいたため、庭をよく見ていなかった。
へ戻る。
をけると、剪定した梅のに、よりくのいが咲いていた。
切られた枝の跡は残っている。
その周りから細いしい枝が伸び、いくつもの蕾をつけていた。
文はスマートフォンで写真を撮った。
し斜めになり、指も端に写り込んだ。
撮り直そうとしたが、そのまま織へ送った。
《本当に増えた》
すぐに返事が届いた。
《職さんを疑っていましたね》
文は、
《あなたほどではない》
と返した。
しばらくして、笑う顔の絵文字がつ届いた。
文は縁側へ座り、梅のを眺めた。
正雄が植えた。
達也と由紀が子どもの頃、枝に紐を結び、を吊るした。
織が嫁いできた、族写真の背景に写っていた。
いくつもの来事を見てきたが、は何も覚えていないかもしれない。ただ季節が来れば芽をし、必のない枝を落とされ、それでも残った所からを咲かせる。
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族は、のようにはいかない。
度傷つけた言葉は消えない。
失ったも、壊れた信頼も、なかったことにはならない。
達也がいつ族と向きえるのかも分からない。美が父親を許すが来るのか、織がしいとを歩むのか、文の物忘れがこれからむのかも分からなかった。
それでも、今ある関係を自分で選ぶことはできる。
織はもう嫁ではない。
文も姑ではない。
それでも来週、2は緒に美の入学式へく。
帰りには、駅のでしい昼をべる約束をしていた。
活メモのしいページをく。
文は付をいた。
《321 梅が満。よりがい。織さんへ写真を送る》
し考え、そのへ文を加えた。
《実印を貸庫へ戻した。自分で確認して、自分で決めた》
ノートを閉じようとした、玄関のチャイムが鳴った。
織だった。
には、以文から借りたハンカチと、商で買った桜餅を持っている。
「梅を見に来ました」
「写真を送ったでしょう」
「実物を見たくなったので」
「お茶くらい、自分で入れてね」
「元お姑さんは、お客さまにお茶もさないんですか」
「元お嫁さんは、勝に蔵庫をけるでしょう」
織は笑いながら台所へ向かった。
文は縁側に座ったまま、その背を見た。
18、織が初めてこのへ来た、文はが族になるのだとった。
婚が成したには、族がへ戻るのだとった。
どちらも、し違っていた。
は戸籍や名字だけで、急にくなったりくなったりするわけではない。言葉をね、失敗し、にはれ、それでも会おうとった分だけ、関係はしずつ形を変える。
織が湯呑みを2つ持って戻ってきた。
「お義母さん、お茶です」
「その呼び方、まだ続けるの?」
「嫌ですか」
文はし考えた。
「今は、それでいいわ」
2は梅のので桜餅をべた。
まだはたかったが、差しにはの温かさがあった。
枝の先では、いがさく揺れている。
文は、織へ言わなければならないことをついした。
「来週、美の入学式でしょう。あなたの、あの紺のままでくの?」
「何か問題がありますか」
「しよ。なんだから、るいにしたら?」
織は呆れたように笑った。
「それは、姑としての見ですか」
「違うわ。70以きた女としての見」
「では、聞くだけ聞いておきます」
「聞くだけ?」
「決めるのは私ですから」
文は瞬黙り、それから笑った。
「そうね。自分で決めなさい」
梅のが、に揺れた。
何もかも元通りになったわけではない。
けれど元通りになることだけが、幸せでもなかった。
切られた枝は戻らない。
その代わり、以とは違う所から、しいが咲いていた。