"家賃55万の置き土産" 第1話
「里帰り産で咲斗とみちるさんが帰ってくるから、あなたはまでにていってちょうだい」
仕事から帰った私を待っていた義母は、夕の挨拶でもするような穏やかな声でそう言った。3には、夫の男である咲斗と、臨を迎えた妻のみちるさんがこのへ来ることになっている。けれど、それはあくまで産の数かをここで過ごすという話だったはずで、私が追いされるなど度も聞いていなかった。
「……私が、ですか?」
聞き違いではないかとって尋ねると、義母は呆れたように眉をげた。テーブルには、数に私がおをして買ったばかりのベビー用品のカタログが広げられている。その向こう側から私を見つめる顔には、迷いも申し訳なさもなかった。
「ええ。咲斗たちはこれからここで暮らすの。赤ちゃんもまれるんだから、このくらい広いじゃないと困るでしょう? あなたには今まで咲斗の母親役をさせてあげたんだし、もう分じゃない」
義母の言葉を理解するまで、数秒かかった。母親役を「させてあげた」と言われるほど、私は咲斗に母親らしいことができたわけではない。むしろ結婚した当初から、義母は私と咲斗のに壁を作り続けてきた。
「でも、慎也さんはこのことをっているんですか?」
夫の名をすと、義母の元にい笑みが浮かんだ。
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「慎也もあなたには飽きているんじゃないかしら。最、泊まりの張がずいぶん増えたでしょう? 今頃、しい女性と楽しくやっているかもしれないわね」
胸の奥をたい指でなぞられたような覚がした。確かに、この1ほど夫の帰宅は遅くなり、以ならほとんどなかった泊まりの張も増えていた。けれど私は、会社の業績が悪化しているからこそ部である夫にも負担がかかっているのだと信じていた。
「そんな……慎也さんに限って」
「どうかしら。とにかく、私はあなたを養い続けるつもりはないの。には荷物をまとめてね」
その言には、わず笑いそうになった。
義母はらない。
このの賃が毎55万円であることも、その賃をここ数ずっと私が払っていることもらなかった。もっと言えば、リビングの型テレビも、蔵庫も、洗濯乾燥も、ダイニングセットも、ソファも、私が自分のおで買い替えたものだった。
もちろん、最初からこんな計だったわけではない。
13に夫と結婚した頃、慎也は会社の部へ昇したばかりで、収入も分にあった。私が以の病気の響で子どもを望めない体だと打ちけても、彼は態度を変えず、「できていけばいい」と言ってくれた。
その慎也には、の結婚でまれた息子がいた。
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咲斗。当10歳。
慎也が妻と婚した、咲斗は父親と祖父母に育てられていた。ところが数、義父が事故でくなり、義母が咲斗の世話をに引き受けるようになったという。
「いきなり母親になろうとしなくていい。咲斗も難しい頃だし、母さんもいる。みんなが息苦しくならないように、広いへ引っ越そう」
慎也はそう言って、都へのアクセスが良い型マンションを選んだ。賃は当からかったが、夫の昇祝いも兼ねて、私たちはここからしい族を始めるのだとっていた。
私はそれを13信じ続けた。
ところが今、そののダイニングに座っている義母から、「もう用済みだからていけ」と言われている。
「分かりました」
私はそれ以言い争わなかった。
義母はしそうな顔をした。
「今はでべてきますね」
「好きにすればいいわ」
私はバッグを持って玄関をた。エレベーターへ乗り込み、閉じていく扉の向こうに義母の姿が消えた瞬、元から力が抜けそうになった。
族として受け入れてもらえなかったことくらい、ずっとから々分かっていた。それでも夫だけは私の方だとっていたし、咲斗ともいつか普通に話せるが来ると信じていた。
だからこそ、確かめなければならない。
義母が言った「しい女性」
という話だけは、そのままにしてていくことができなかった。