"返されなかった合鍵" 第14話
幸福だった。
苦しかった。
していた。
許せない。
会いたい。
すべてが本当だった。
夕方、奈から写真が届いた。
絵画教ので、と並んでいる。奈はしい作品を持ち、は専学の資料を抱えていた。
《今度の展示、お母さんも来る?》
千鶴は、
《く》
と返した。
続けて、
《帰り? 泊まる?》
と届く。
以なら、迷惑をかけないように帰りを選んだだろう。
千鶴はし考え、
《泊めて》
と送った。
すぐに奈から、
《珍しい》
と返ってきた。
千鶴は笑った。
川の向こうに、夕が沈み始めている。
写真を撮ろうとスマートフォンをしたが、画面にはうまく収まらなかった。実際の空より暗く、川面のもさく見える。
撮をやめ、そのまま眺めた。
残らないものが、なかったことになるわけではない。
言えなかった言葉。
らされなかった。
にわなかった謝罪。
けるのが遅すぎた扉。
それらもすべて、のに残っている。
千鶴はバッグのの鍵を握った。
もう、過の部はかない。
けれど自分のこれからを閉じる鍵でもなかった。
川沿いのには、へ帰ると、これからどこかへ向かうがき交っていた。
千鶴も歩き始めた。
はで美術館へく。
来週は奈の展覧会を見る。
初には、美咲と裕子の墓参りへく約束をしている。
雅夫がいないには、まだ慣れていない。
それでも、その先に何もないわけではなかった。
千鶴は振り返らなかった。
何もかなくなった古い鍵を持ったまま、自分で選んだ次の所へ、ゆっくり歩いていった。