"娘の遺した手紙" 第2話
賢治は満そうに笑い、ソファへ座った。
「物分かりがいいじゃないか。このにあるものは全部、俺ので買ったものだからな。以は持っていくなよ」
私は2階へがり、必最限のと類を鞄へ詰めた。寝の奥から、さな庫の鍵と黒い通帳を取りす。
それは賢治が逆ちしてもに入れられない、私自の財産を管理するためのものだった。
玄関で靴を履く私へ、賢治はさらに声を投げつけた。
「せいぜい公園のベンチで寝るんだな。この貧乏神」
私はドアノブへをかけ、度だけ振り返った。
「本当に、悔しないのね?」
「悔するのはおの方だ。度と俺に泣きつくなよ」
「分かりました」
玄関をると、たい夜が頬を撫でた。
背で乱暴に扉が閉まり、鍵をかける音が聞こえる。私は暗い宅でスマートフォンを取りし、20、度も夫のでかけなかった番号へ発信した。
数回の呼びし音の、男性の声がした。
『お話をお待ちしておりました、オーナー』
「今からスカイガーデンタワーへ向かいます」
自分でも驚くほど、声は落ち着いていた。
「それから、佐藤賢治について保留にしていた調査を、正式にめてください。の朝までに、分かっていることをすべて報告して」
『承いたしました』
通話を終え、私はタクシーを呼んだ。
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き先は、都の等にそびえる40階建ての複ビルだった。単体評価額は約70億円。そして周辺の6棟を含む産群の総資産評価額は、約700億円に達する。
そのすべてを所する資産管理会社の株主が、私だった。
夜の都に、スカイガーデンタワーは静かにそびえていた。
全面をガラスで覆われた40階建ての建物には、オフィス、ホテル、商業施設が入り、夜になってもくの窓にかりが残っている。の象徴としてられるそのビルを、賢治も仕事で何度か訪れたことがあった。
しかし、所者が私だとはらない。
タクシーをりた私は、美緒の遺骨を抱え直した。喪の裾は汚れ、髪も乱れていたため、この所には釣りいな客に見えただろう。
だが正面玄関の自ドアがくと、警備責任者と夜勤の職員が斉にをげた。
「お帰りなさいませ、佐藤オーナー」
私はさく頷き、般客が使わない専用エレベーターへ乗った。最階のボタンへカードキーをかざすと、箱は音もなく昇を始めた。
そこには役員会議や迎賓のほか、私専用の居区がある。
理の、壁面の窓、その向こうに広がる無数の灯り。20、何度か訪れてはいたものの、ここで夜を過ごすのは初めてだった。
豪華な部も、今の私には空虚な箱にしか見えなかった。
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美緒の遺骨を窓際のテーブルへ置く。ここからなら、娘が入院していた病院の建物もくに見えた。
「お母さん、あなたを守れなかったね」
い箱へ触れた瞬、乾いていた涙が流れた。
その、奥の扉がき、髪の男性が姿を見せた。
宗郎、68歳。祖父の代から族の資産管理に携わり、現は私が所する「アセットマネジメント」の会を務めている。
「陽子様、変な1でございました」
はくをげた。
「ご連絡が遅くなって、ごめんなさい」
「謝るのは陽子様ではありません。美緒お嬢様のご葬儀当に、あのような仕打ちをした者こそ恥じるべきです」
は20から、私と賢治の結婚を見守ってきた。賢治の傲な言が増えてからは、何度も婚を勧められたこともある。
それでも私は決断できなかった。
「美緒には父親が必だとっていたの」
「お嬢様は、父親のいるではなく、お母様が笑っていられるを望んでいたのではありませんか」
胸を刺されるような言葉だった。
けれど、否定できなかった。
は温かいお茶を用し、い封筒をテーブルへ置いた。
「こちらが、現点で把握している賢治氏の素調査です」
私は封筒から写真を取りした。
級レストランで若い女性と腕を組む賢治。ホテルの入へ並んで入る姿。私が見たことのない輸入を運転し、ブランドからきな袋を持っててくる写真もあった。
「このおは、どこから?」
賢治の料では到底賄えない活だった。