"残飯の花嫁" 第12話
霞は何度も「こんなにしてもらって申し訳ない」と言いかけた。
そのたびに祖母が訂正した。
「申し訳ないじゃなくて、ありがとうでいいのよ」
「ありがとう」
霞はし照れながら言い直した。
昼には、引っ越し蕎麦をべた。
霞のにも、全員と同じ量の蕎麦が置かれた。誰かがべ終えるのを待つことも、残り物を探す必もない。
霞は温かい汁をみ、静かに笑った。
「おいしい」
その言を聞くたび、私はあの朝をいす。
簡単な卵焼きと噌汁を、豪華な事のように見つめていた姉。残しても捨てないかと、怯えながら尋ねた姉。
今の霞は、自分で好きな器を選び、べたい料理を作れる。
それは当たりの活だった。
けれど度奪われた霞にとっては、自分のを取り戻した証しでもあった。
森本がそのどうなったのか、私たちは積極に調べなかった。
孝志は配置転換先で暮らし、悦子と隆は親戚から距を置かれていると聞いた。以のように勢を集めて宴会をくこともなくなったらしい。
だが彼らが幸になったからといって、霞の傷が消えるわけではない。
相の転落を見届けることより、霞が自分の幸せを積みねる方が切だった。
の曜、私たちは祖父母のへ集まった。
庭の桜が満になり、祖母は縁側へきな座卓をした。
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霞も朝から台所にち、祖母と緒にちらし寿司を作った。
「無理しなくていいのよ」
祖母が声をかける。
「無理してないよ。今は私が作りたいの」
以、料理は霞を支配する具にされていた。
作ったものを捨てられ、まずいと罵られ、休むことなく台所へたされた。それでも霞は、料理そのものを嫌いにはならなかった。
自分が作りたい相へ、自分ので作る。
同じ作でも、はまったく違った。
卓には、祖父の兄弟や叔父、叔母、従兄弟たちが集まった。
あの、霞を守るために義実のくまで同した々だ。誰も当のことを面おかしく語らず、霞が持ってきた料理を普通に囲んだ。
だった奈々は学になっていた。
「霞お姉ちゃん、このちらし寿司おいしい。今度、作り方を教えて」
「いいよ。試験が終わったら緒に作ろう」
その会話を聞き、祖父は嬉しそうに目を細めた。
、霞は祖父の隣へ座った。
「おじいちゃん、あの、助けてくれてありがとう」
「わしはしたことをしていない」
「ううん。あとは任せろって言ってくれたでしょう。あの言葉で、やっと逃げてもいいんだとえたの」
祖父は庭の桜を見げた。
「本当はな、もっとく気づいてやりたかった」
「私が隠していたから」
「隠さなければならないとわせていたのなら、わしらにも考えるところはある」
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祖父は霞へ向き直った。
「族に配をかけたくないという気持ちは分かる。だが、族は配を分けうためにもいるんだ。次に苦しいことがあったら、もっとく帰ってこい」
霞は笑った。
「もう、あんなには嫁がないよ」
「結婚だけの話ではない。仕事でも、友でも、何でもだ」
祖父の言葉に、霞は真剣な顔で頷いた。
帰り際、祖母が私たちへ箱を渡した。
瞬、私はあの、森本へ持っていった箱をいした。だが今回のは、ちらし寿司と煮物、霞が作った卵焼きだった。
「2でべなさい」
祖母が言う。
私のマンションへ戻ると、霞と向かいって遅い夕を取った。
「この部、懐かしいね」
「お姉ちゃんの部、まだ残してあるよ」
「もう物置にしていいのに」
「たまに泊まりに来るでしょう?」
霞はし考えてから笑った。
「じゃあ、もうし残しておいてもらおうかな」
事の途、霞は卵焼きを1切れ残した。
以なら、残すことを恐れ、苦しくても無理にべていたはずだ。
「お腹いっぱい?」
私が尋ねると、霞は頷いた。
「の朝にべる」
「分かった。蔵庫に入れておくね」
それだけの会話だった。
べきれなかったものを、罰として押しつけられることもない。残したからといって叩かれることも、誰かに笑われることもない。
になれば、自分がべたいにべられる。
霞は残った卵焼きをさな保容器へ入れ、蓋を閉めた。
その穏やかな横顔を見ながら、私はようやく確信した。
姉はもう、あのから帰ってきただけではない。
奪われていた自分のと、声と、選ぶ権利を取り戻したのだ。
あの夜、ボロボロの姿で私の玄関にった霞は、「突然来てごめん」と謝った。
けれど今なら、私はもっとはっきり言える。
逃げることは、負けることではない。
耐え続ける以のを選び、自分を切にしてくれるのもとへ帰ることは、きるための派な決断なのだ。
窓のでは、のが静かにり始めていた。
私は温かいお茶を入れ、霞のへ置いた。
霞は何の恐れもなくカップへを伸ばし、ゆっくりとをつけた。その表には、誰かの嫌を窺うも、次に何を命じられるのかと怯えるもなかった。
姉のは、これからだ。
今度こそ誰かに与えられた幸せではなく、自分ので選び、自分ので積みねていく。
そのがどこへ続いていても、霞には帰る所がある。
そして今度は、苦しくなるに扉を叩けばいい。
その扉はいつでも、姉のためにかれているのだから。