"トウモロコシ畑に消えた母" 第3話
紀子は噂を聞くたびに泣いた。
「お母さんは、そんなじゃない」
健は妻の肩を抱き、優しい声で言った。
「分かっている。のが何を言っても、俺だけは信じるから」
事件の翌、健は警察署を訪れ、犯逮捕につながる報へ300万円の謝礼をすと申した。記者のでも涙を流し、義母の無をらしたいと訴えた。
その姿は聞にも掲載され、「親孝な婿の痛な訴え」と報じられた。
捜査員のくも、健をく疑わなかった。事件当夜、彼は京・本にある会員制クラブの個へおり、午11から翌朝5までへていないという証言があったからである。
クラブの従業員3が、健らしい男を見たと証言した。照の暗い個で、いつもの級スーツを着て酒をみ、途で客と話をしていたという。
駐にも健の黒い級が残され、携帯話の位置報は本周辺を示していた。京から青沢までで往復すれば、なくとも5半は必だった。
推定刻を考えれば、健の犯は困難に見えた。
それでも、松田英司刑事は違を抱いていた。
芳子の、と保険を最もく確認したのは健だった。葬儀の翌には芳子のへ連絡し、紀子の代理を名乗って座の残との権利証について尋ねている。
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健の会社には額の負債があり、複数の債権者から返済を迫られていた。芳子がめていた農の賃貸契約が成すれば、すぐに売却や担保設定をうことは難しくなる。
はあった。
しかし、だけではを逮捕できない。
松田は、現から見つかったプラスチック片に注目した。さ約2センチの透な部品で、方が割れ、内側には微量の赤褐の汚れが付着していた。
隣の農協や物病院へ確認すると、畜へ薬を投与する注射器の保護部品に似ているという回答があった。農では珍しくない物で、購入者を特定することは能だった。
がり始めたのは、事件から4だった。数続いた激しいが畑のを流し、わずかに残っていた痕跡のくを消した。
捜査は、から来た者による犯説へ傾いていった。
「現がいすぎている。普通のの仕事じゃない」
捜査会議では、経験のある犯罪者や、勘を持つ複数犯の能性が語られた。
だが松田には、むしろ逆にえた。
部のが、のる刻、芳子が1で収穫へる、畑のどこに軽トラックをめるかまで把握できるだろうか。
犯は、芳子の活をよくっていた。
そして現を「異常な事件」に見せることへ、い目を持っていた。
松田は健を再度呼びし、会社の借と芳子のについて尋ねた。
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健は価なスーツを着て現れ、弁護士を伴っていた。
「な資繰りの問題です。事業をしていれば、借入があるのは当然でしょう」
健はとの契約を机へ置いた。表面は返済計画がえられ、今すぐ破綻するようには見えなかった。
「義母のを担保にする計画は?」
「ありません。将来、妻が相続したに活用方法を相談するつもりでした」
「芳子さんは、農業法へ貸す話をめていた」
「本のですから、私が反対することではありません」
「論になりませんでしたか?」
「族なら見の違いくらいあります。それを殺のだと言うんですか?」
健は穏やかな調を崩さなかった。質問へ答えるに弁護士の顔を確認し、余計な言葉を切にしない。
松田は薬物についても尋ねた。
「から未承認の薬を仕入れたことは?」
「健康品や医療関連の商品を扱っていますから、試験用のサンプルを輸入することはあります。すべて税関と専を通しています」
「個に使ったことは?」
健の目に瞬だけ鋭いが浮かんだ。
「私を薬物依者だと言いたいのですか?」
隣の弁護士が聴取の止を求めた。物証のないまま遺族を犯扱いするなら、県警へ正式に抗議すると告げた。
司からも、健への過度な接触を控えるよう指示がた。
域の力企業や政治とつながりを持つ健は、警察へ圧力をかけられるだけの脈を築いていた。