"嫌われた娘の五十八億円" 第5話
当だった男の修と、学だった慎だった。
は部の異様な空気にも怯むことなく、テーブルのに黒崎が積んだ百万円の札束のを見るなり、浅ましい獣のように目を爛々と輝かせた。
修は言った。「親父、やろうぜ! ヤクザの仕事だろうが何だろうが、になれば勝ち組だ! 俺、同級に見せびらかすためのバイクとが欲しいんだよ!」
慎も言った。「兄貴の言う通りだよ! さえあれば、学の奴ら全員俺にペコペコするだろ! 借が消えて持ちになれるなら、警察なんて怖くない!」
俺は背筋が凍りついた。
俺の血を分けたの息子は、すでに内面から救いようのないほど腐り果てていた。努力もせず、汗も流さず、の血と涙で膨らんだに群がる怪物が、がので育っていたのだ。
そのだった。
の表の引き戸がガラガラとき、「お父さん! ただいま!」という、真の無邪気で透き通った声が響いた。
黒崎がゆっくりとちがり、ギラついた目をの入りに向けた。
「ほう……い娘さんじゃねえか。の親父、話がくて助かるぜ。担保はその娘だ。おがしでも警察に密告したり、仕事をサボったりしたら、あの娘をどう料理してやるか……どもの息のかかった裏俗に売りばして、クスリ漬けにしてやるよ」
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その瞬、俺ので何かが音をてて千切れた。
俺の命はどうなってもいい。このがどうなろうと構わない。
だが、真だけは違う。
あいつの純粋な魂と未来だけは、この汚れた獄の沼にミリたりとも触れさせてはならない。
俺は真が事務所に入ってきた瞬、に持っていたケーキの箱をに叩き落とし、革靴の踵でぐちゃぐちゃに踏み潰した。
そして、ランドセルを背負って呆然とち尽くす真の頬を、い切り平打ちした。
「女が気に誕など祝うな! 邪魔だ、目障りだ、度と俺のに面を見せるな!」
真は頬を押さえ、信じられないものを見る目で俺を見つめ、泣き叫びながら階の自へ駆けがっていった。
黒崎たちは腹を抱えて声で笑った。
「なんだ、の親父は娘が嫌いなのか。あんな娘、質にも使えねえな」
黒崎たちの濁った線が、真から完全に逸れた。
連が帰った、俺はの裏のドラム缶のにで隠れ、タバコを本て続けに吸った。
震える拳をコンクリートの壁に叩きつけ、骨が砕けて血が噴きしても、痛覚など麻痺していた。ただ、涙が止まらなかった。
すまない、真。許してくれ、真。
俺はおをしている。自分の命を差ししてもりないほど、くしている。
だからこそ、俺は今から、おにとって世界で番酷な悪魔になる。
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おが俺を激しく憎み、こののを軽蔑し、もくをてくへ逃げるように仕向けること――それが、おという無力な女を、裏社会の毒から守り抜く唯の防弾チョッキなのだ』
真は胸元を両でくかきむしった。
息が苦しかった。喉の奥が引き攣り、胸が張り裂けそうな激痛がる。
あの歳の誕の夜。なぜ父が突然あんな理尽な暴力を振るったのか、なぜ好物だったケーキを踏み躙ったのか、ずっと自分を責め続けてきた。
――私が悪い子だったから、お父さんに嫌われたんだ。
そうい込んできてきたの呪縛が、父の血のにじむような独によって、音をてて々に砕け散っていく。
父は、真を嫌悪していたのではない。
真を暴力団の「質」という名の獄から完全に化するために、自らの父親としての尊厳をすべてかなぐり捨てて、悪魔のを被ったのだ。
真は涙で滲む界を拭い、で次のページをめくった。
ページがむにつれ、父・源蔵の孤独な「戦争」の記録が、克に記されていた。
源蔵は表向き、黒崎の脅迫に怯えて違法部品の加を引き受け、息子たちの放蕩を黙認する無力な老いぼれ社を演じ続けていた。だが、その裏では、のNC旋盤の内部コンピュータに極秘のログ解析プログラムを自作して組み込み、裏社会へ流れたすべての違法器のシリアルナンバー、納入先の暴力団組織名、取引を、暗号化して別サーバーへ保し続けていた。