"捨てられた妻の逆転相続" 第1話
線の煙が、寺の格式い院の井へ細くちっていた。
加納恵子(かのう・けいこ)歳は、喪の膝のでさく指を組んでいた。、朝から晩まで義母の体を拭き、シーツを替え、事をずつスプーンで運び続けたには、消えない節くれといタコが刻まれている。
、脳梗塞で倒れて以来寝たきりだった義母・静(しずえ)が、歳で息を引き取った。
本の法を終え、親族同が引きげたの静寂。広な旧の敷へ戻ったリビングで、夫の俊(としき・歳)は、ネクタイを緩めながら級革張りのソファへ々と腰をろした。
隣には、都内の産会社に勤める男の翔太(しょうた・歳)が、スマートフォンを弄りながら無関そうに座っている。
俊は加納の本を継ぐ男であり、代々続く産管理会社「加納所」の社を務めていた。名の血筋を何よりも誇りとし、では格者として振るいながらも、庭内では絶対の君主として君臨してきた男だ。
恵子が台所からたい緑茶を盆に乗せて運んでくると、俊は湯呑みにを伸ばすこともなく、顎をわずかにげて妻を見げた。
「恵子、座りなさい。これからのことについて、話がある」
恵子は静かにスカートの裾をえ、対面の子に腰をろした。
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「お母さんのに及ぶ介護、まあ、ご苦労だったな。加納の嫁としての義務を全うしてくれたことには謝している」
俊の声には、労いというよりは形式な検収印を押すような乾いた響きがあった。
「お母さんもいなくなり、翔太もの社会として自した。加納としてもつのきな区切りを迎えたわけだ。そこでだ……お互いのこれからのを考えて、ここらで『清算』をしたいとう」
「清算……ですか」
恵子は静かにその言葉を繰り返した。
俊は胸ポケットからの万を取りし、テーブルので弄びながら、平然と言い放った。
「率直に言おう。君と私は、性格も価値観も違いすぎた。これまで結婚活を維持してこられたのは、お母さんの介護という君の『役目』があったからだ。だが、その役目ももう終わった。私もまだ歳だ。加納の当主として、残りのをふさわしい形で、しくやり直したい」
「やり直す、というのは……婚するということでしょうか」
「そうだ。翔太も納得している」
俊が線を向けると、翔太はスマートフォンの画面から目をし、淡な調で言った。
「母さん、父さんの邪魔をしないでくれよ。俺たちの柄は世体を気にするんだ。介護が終わってにただ居るだけの母さんに、父さんが気を使うのも自然だろ。
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父さんがしい奥さんをもらってを盛りてる方が、加納にとってもプラスなんだから」
、義母の排泄物の処理から夜の体位交換まで、たったで背負い続けてきた妻であり母である恵子に対し、の男が向けたのは「使い終わった具を処分する」ような残酷な線だった。
恵子の胸の奥で、の結婚活が音をててえ切っていった。
「……わかりました」
恵子は取り乱すことも、泣き叫ぶこともなく、ただ静かに頷いた。
「話がくて助かる。切れ代わりに、相応の額は用してある。に荷物をまとめててってくれ」
俊は満げにちがり、斎へと消えていった。翔太もまた「じゃあ俺、マンションに戻るから」と言残し、母に目もくれず敷をてった。
残された暗いリビングで、恵子は義母の仏壇に向かって静かにをわせた。
その瞳には、絶望ではなく、の約束を果たし終えた者だけが持つ、鋭いが宿っていた。
翌朝、俊が目を覚ました、加納の広な敷は底えするような静寂に包まれていた。
毎朝に聞こえていた台所の包丁の音も、廊を雑巾掛けする音も、切聞こえない。
俊はパジャマのにガウンを羽織り、リビングへりた。
ダイニングテーブルのは綺麗に拭き清められ、恵子の姿はどこにもなかった。
玄関へ向かうと、彼女が普段履いていた履き古した靴が残らず消えている。