"飛騨の農家に消えた嫁" 第4話
くを通ったが声をかけた。
「こんな寒いに何しとるんや」
蔵は振り返りもせず答えた。
「堆肥をひっくり返しとるだけや」
真にいをかけて堆肥を掘り返すのは、し自然だった。
だが蔵が農で何をしていようと、はを挟まなかった。
ゆき子が消えて2、蔵は農の庭で何かを燃やしていた。
所の民2が煙を見ていた。
1は、
「古いのようなものを燃やしているように見えた」
と記憶していた。
もう1は、
「ゴムが焦げるような嫌な匂いがした」
とに証言した。
しかし当、2とも警察には何も話さなかった。
理由は単純だった。
警察が聞きに来なかったからだ。
1214には、蔵が農の軽トラックを町の洗へ持ち込んだ。
洗の主は、そののことを8まで覚えていた。
真にもかかわらず、蔵は体だけでなく荷台の奥まで圧洗浄で洗うよう頼んだ。1度ではりないと言って、同じ所をもう1度洗わせた。
「この辺も、もっとやってくれ」
蔵は荷台の隅を指さした。
主が言われた通り洗い終えると、蔵は何度もを確認した。
その、満したように笑ったという。
当はきれい好きななのだとった。
その笑顔を自然だとじるようになったのは、ずっとのことだった。
方、富ではゆき子の母、涼子が娘の方を案じ続けていた。
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失踪のらせを受けた涼子は、体調の悪い夫をに頼み、バスを乗り継いで騨までやってきた。
を訪ねた、蔵は涼子を縁側にたせたまま、のへ招こうともしなかった。
「ゆき子はをてったようです」
涼子は目を見いた。
「どうしてですか。何かあったんですか」
「私らにも理由は分かりません」
「健さんは?」
「仕事です」
「警察は探してくれているんですか」
蔵はし面倒そうに息を吐いた。
「届はしました。あとは本が戻るのを待つしかないでしょう」
茶の1杯もなかった。
涼子は娘の部を見せてほしいとも言えず、そのをにした。
富へ戻るバスので、ずっと泣いていたという。
にへ話した。
「ゆき子がどこにいるか分からないことも怖かった。でも、あのそのものが怖かった」
翌、にはまたが来た。
柿のに芽がて、牛舎では子牛が4まれた。
ゆき子が毎朝働いていた所は、彼女がいなかったことなど忘れたようにき続けた。
蔵はその、町の牛品評会で賞を受けた。
取材した広報誌の記者に、
「良い牛を育てる秘訣は何ですか」
と尋ねられると、蔵は胸を張った。
「牛はとが全てです」
その言葉は町の広報誌へ掲載された。
蔵の写真の横には「誠実な畜産農」という言葉さえ添えられた。
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そこにゆき子の名はなかった。
1997、健は再婚した。
ゆき子が失踪してから2も経っていなかった。
相はの32歳の女性、ゆみだった。
今回も見いだった。
では、
「の奥さんはどうしたんだ」
「まだ見つかっていないんじゃないか」
という声がた。
しかしくは続かなかった。
「あれは自分からてったらしい」
いつのにか、そんな話が事実のように広まった。
蔵は再婚の祝いを農の庭で盛にった。
を50く招き、仕し料理を並べた。
その、蔵は誰よりもきな声で笑ったという。
2000代に入る頃には、農は以より規模を拡していた。
牛舎をもう1棟増やし、飼育数は50を超えた。騨牛の名が全国にられていく流れにも乗り、蔵は域の畜産組でもさらに響力を持つようになった。
老会の集会所を増築するには、額の寄付をした。
正になると、所へ牛肉を配った。
「蔵の旦は派や」
ではそう言う者が増えた。
8に消えた若い嫁の話を、にするはほとんどいなくなった。
しかし富にいる涼子だけは、1たりとも娘を忘れなかった。
毎12になると警察へ話をかけた。
「娘のことで何か分かっていませんか」
「もうし探してもらえませんか」
担当者は何度も変わった。
そのたび涼子は最初から説した。
娘の名。
齢。
結婚した。
失踪した。
8、度も連絡がないこと。