"飛騨の農家に消えた嫁" 第3話
「お母さん……私、帰ったらだめかな」
ある話で、ゆき子はそうにした。
涼子はすぐに答えられなかった。
病気の夫を抱えた実へ、娘を呼び戻す余裕があるとは言えなかった。
それでも最には、
「帰りたいなら帰っておいで」
と伝えた。
その言葉を聞いたゆき子は、しばらく黙っていた。
そしてさく、
「ありがとう」
と言った。
ただ、その会話を聞いていた者がいた。
の奥にいるはずだった蔵だった。
1995127。
朝からみぞれがり続き、昼になっても気温は8度ほどまでしかがらなかった。の細いにはく氷が張り、のくが必のないを避けるようなだった。
ゆき子は、その朝も5に起きた。
いつものように牛舎へき、照をつけ、牛たちの餌を用した。へ戻ると朝を作り、7には蔵たちのへ膳を並べた。
表面は、何も変わらない朝だった。
隣の農にむ伊藤の老女は、午10頃、塀越しにゆき子の姿を見た。
「青いきなジャンパーを着てね、牛舎の方へ歩いていったよ」
それが伊藤が見た、ゆき子の最の姿だった。
この証言は当初、警察の記録にわずか2しか残されなかった。
だが8、事件が再びきした、その午10というがな基準になる。
午11頃、蔵はの老仲のへ向かった。
毎週曜になると、将を指すために集まる習慣があった。
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夫の健もその朝は農にいなかった。
町の部にある農協の倉庫までき、資料の入った袋を受け取る用事があった。農協職員の1は、健が午1040分頃に倉庫へ来たことをになって記憶していた。
つまり午11、の農にはゆき子だけが残っていたがあった。
正午をし回った頃。
隣の集落にむ本浩という41歳の男性が、仕事の用事での細いを通りかかった。
農のを通り過ぎただった。
ドン――。
鈍くい音が聞こえた。
属同士がぶつかるような甲い音ではない。
何かいものがへ倒れたような音だった。
本はを止めなかった。
「牛が柵でも蹴ったんだろう」
その程度に考え、そのまま歩きった。
午2頃、蔵がの老仲のから戻った。
午4頃には、健も資料の袋を軽トラックへ積み、農へ帰ってきた。
しかし、それ以ゆき子を見た者はいなかった。
夕方。
卓にゆき子が現れなかった。
蔵は椀にを伸ばしながら、言だけ尋ねた。
「ゆき子はどこへった」
健はの奥を見た。
「らん」
「何も聞いとらんのか」
「聞いてない」
2はそのまま、ゆき子のいない卓で夕を済ませた。
夜になっても戻らなかった。
それでも族が声で呼び回った形跡はなかった。
所へ尋ね歩くこともなかった。
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その夜、牛舎のかりは朝まで消されないまま残っていた。
牛たちが鳴いていた。
翌朝。
牛舎の入りくのぬかるんだ面から、ゆき子が使っていたゴム靴が片方だけ見つかった。
もう片方は、いくら探しても見つからなかった。
健が警察へ失踪届を提したのは、129の午だった。
類には「妻が2から姿を見せない」と記された。
担当した巡査は、健へいくつか質問した。
「夫婦ので揉め事はありませんでしたか」
「ありません」
「をるような話は?」
「聞いていません」
「実には?」
「連絡しましたが、向こうにもっていないそうです」
巡査は帳へくき込み、しばらくして閉じた。
「最は夫婦の問題で、急にをるもいますからね。数すれば戻るかもしれません」
健は頷いた。
それで終わった。
警察は現へかなかった。
牛舎を確認しなかった。
靴も見なかった。
の族や隣民へ詳しい聞き取りをすることもなかった。
記録、ゆき子の失踪は「の能性がい」と分類された。
に残っていた類は42枚。
現写真は1枚もなかった。
8、その記録を読み返した渡辺警部補は、輩刑事へこう漏らすことになる。
「これは捜査とは呼べん。族がだと言えば、そのままとしていただけだ」
その頃、警察が帳を閉じた農では、蔵が奇妙なを始めていた。
失踪届をしたの午。
蔵は牛舎の裏にあるきな堆肥ので、1以1で作業していた。