"退職祝いは離婚届" 第2話
むしろ何度も自分ので繰り返し、ようやくがくなったのように落ち着いていた。
「私、ずっと『これが終わったら』って言われてきたでしょう。昇試験が終わったら、お義父さんの回忌が終わったら、彩が受験を終えたら、お義母さんの介護が落ち着いたら、部になったら、取締役になったら」
真由美は指を折るようには数えなかった。ただつつの言葉を置いていき、そのたび俊夫のに、自分が確かににした記憶が戻ってきた。
「全部終わったじゃないか」
俊夫が言うと、真由美はまた首を振った。
「私の方が先に終わったの」
そのが分からなかった。
「何が」
「待つのが」
部が静かになった。
俊夫はりたかった。38働いて族を養い、宅ローンを返し、娘を学までした自分に対して、あまりにも方ではないかとった。
「俺は族のために働いてきたんだぞ」
真由美はすぐに頷いた。
「ってる」
「だったら」
「だから謝してるよ」
「謝してるが、退職したに婚届すのか」
初めて声がきくなった。
真由美はし目を伏せたが、引っ込めなかった。
「今だからしたの」
「何でだよ」
「あなたが今から私とのが始まるとってるから」
俊夫は何も言えなかった。
「私は、38から始まってたの」
真由美はそう言った。
その夜。
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俊夫は婚届に判を押さなかった。
真由美も無理には迫らなかった。
翌朝6半。
俊夫が目を覚ますと、いつものように台所から噌汁の匂いがしていた。
最なのだから何も作らずていけばいいのに、真由美は分の朝を用していた。焼き鮭、ほうれんのおひたし、噌汁、昨の残りの漬物が並んでいる。
「これべたらくね」
真由美は言った。
俊夫は箸を持てなかった。
「本当にくのか」
「うん」
「俺が婚届かなくても?」
「しばらく別居する」
「戻ってくるだろ」
俊夫は、自分でも驚くほど当然のように言った。
真由美はしだけ笑った。
「俊夫さん」
「何だよ」
「そうやって、いつも私が待ってるとってたでしょう」
玄関が閉じたあと。
俊夫はで卓に座っていた。
噌汁はまだ温かかった。
妻がいなくなったというのに、のには昨までと何も変わらない物ばかりが残っていた。
だから俊夫はまだ、本気では信じていなかった。
真由美はいずれ戻る。
そうっていた。
そのの俊夫には、まだ分かっていなかった。
真由美が置いていったのは婚届ではない。
38ずっと自分のろを歩いてきた妻という役目そのものだった。
俊夫と真由美が結婚したのは1988だった。俊夫は26歳、真由美は23歳で、同じ会社の総務部に勤めていた真由美へ俊夫から声をかけたのが始まりだった。
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当の俊夫は今よりよく笑った。料もくなかったので、料には駅の定でつの餃子を分け、休には古のでまでった。
「いつかこう」
付きって半ほどした頃、真由美が言った。
「の?」
「流氷が見たいの。ずっと」
俊夫は笑った。
「寒いだろ」
「寒いからいいんじゃない」
「じゃあ結婚したらこう」
約束というほどげさなつもりはなかった。しかし真由美は嬉しそうに頷き、そのの顔を、俊夫は今でもぼんやり覚えている。
結婚翌、彩がまれた。どころではなくなったが、それはとも納得していたし、真由美自も「子どもがしきくなってからでいい」と言った。
彩が5歳になった、俊夫の父が倒れた。実がかったため、真由美は自分のパートを減らし、俊夫の母を伝って病院へ通った。
父がくなったあと、俊夫は言った。
「回忌終わったら、今度こそどっかこうな」
真由美は「うん」と答えた。
回忌の、俊夫は課昇試験を受けた。受かれば収入もがるな期で、旅どころではないと俊夫自が判断した。
「来でいいだろ」
真由美は反対しなかった。
彩の受験。
学受験。
自宅のローン。
俊夫の母の介護。
真由美自の母の葬儀。
会社の再編。
何かが終わる頃には、必ず次の何かが始まっていた。
俊夫は、その全部をだとっていた。
庭とはそういうものだ。
誰だって忙しい。
したいことを全部できるなどいない。