"捨てた料理の代償" 第3話
ところが翔太はすぐに、「じゃあ兄貴が貸してくれてもいいじゃないですか」と笑い、「かわいい妹夫婦が困ってるんですから」と続けた。その態度に、敬吾はとうとうテーブルへを置いた。
「飯をべに来る。片づけもしない。母さんからまで借りる。俺たちはおらの政婦でも財布でもない。次に同じことをしたら本当にへ入れないからな」
杏奈は唇を尖らせたものの、兄には昔からく言えないのか、「分かったわよ」とだけ答えた。翔太も体格がよく、腕に昔入れたという刺青が見えることもあったが、敬吾の真剣な表を見てさすがに言い返さなかった。はその、いつもよりく帰っていった。
それからしばらく、杏奈夫婦は来なくなった。私はようやく平穏が戻ったとしたし、美智子さんも「敬吾が言ってくれて助かったわ」とほっとしたようだった。ところがヶほど経った頃、義母が申し訳なさそうな表で私に話しかけてきた。
「奈々子さん、今ね、杏奈から話があったの」
内容を聞くと、杏奈は「奈々子さんのせいで実に帰りづらくなった」と満をぶつけてきたらしい。それだけでなく、「奈々子さんたちがていくなら、私たちがお母さんと暮らしてあげてもいい」とまで言ったという。自分から同居を拒否したことも、費も払わず夕をべ続けたことも、母親へ借を頼んだことも、すべてなかったことになっていた。
広告
「ごめんなさいね。私、黙っていればよかったかしら」
「お母さんが謝ることじゃありませんよ」
私はそう言ったものの、内ではかなり呆れていた。敬吾がった理由は杏奈夫婦自のなのに、兄を直接責めることができないから私に原因を押しつけているのだろう。翔太も敬吾には骨に反抗しないことから、にとって私は最も責任をなすりつけやすいだったらしい。
数、予通り杏奈から私の携帯へ直接話がかかってきた。
「奈々子さん、お兄ちゃんに何吹き込んだの?」
「何の話?」
「私たちが実へくの嫌だとか、お借りてるとか、いろいろ言ったんでしょ。のお兄ちゃんなら私にあんなり方しなかったから」
私はできるだけ静に、「私は何も吹き込んでいない」と答えた。そもそも敬吾は同じにんでいて、杏奈たちのを自分の目で見ている。私が告げする必すらなかった。
すると杏奈はで笑った。
「あなたみたいなのと結婚したから、お兄ちゃん変わっちゃったんだよ。ほんと疫病神」
その言葉にはさすがに腹がったが、鳴り返せば杏奈のう壺だとった。私は度息をえ、「実に来たいなら来ればいい。ただし、の事やおを当てにしないで、自分のことは自分でしてね」と答えた。
「ほら、そういうところ。
広告
を疑ってじ悪い」
「ろめたいことがないなら、普通に遊びに来られるでしょう?」
数秒の沈黙のあと、杏奈は「ああ、もういい」と吐き捨てて話を切った。すぐに敬吾へ報告すると、「気にするな。完全なつ当たりだから」と言われ、私もそれ以相にしないことにした。
ところがその、私の携帯には々杏奈から嫌なメッセージが届くようになった。「なのに実を乗っ取ってる」「政婦のくせに偉そう」「くからていけばいいのに」。私はすべて保したものの、返事はほとんどしなかった。
その頃、美智子さんはある物へ連絡を取っていた。
敬吾と杏奈には、もう兄がいた。
男の徹。
普段は本にほとんどいない男だった。
徹さんは敬吾より5歳で、卒業すぐ料理の世界に入り、20代半からで働いていた。フランスやシンガポール、オーストラリアなど複数の国のレストランを渡り歩き、当はヨーロッパの名ホテルにあるレストランで料理をしていた。仕事柄まとまった休みが取りにくく、父親がくなった以来、本へ戻る回数も極端になくなっていた。
私は結婚式のに度会っただけだったが、第印象は「静かな」だった。敬吾のようにを表にすタイプではなく、必なことだけをく話す。
それでも父親をくしたあと、美智子さんの活費やの修繕費について何度も気にかけていたらしく、族へのがいわけではなかった。