"300万円の口止め料" 第2話
夫の声が聞こえました。
「だから、ここへ印鑑を押してくれればいい。あとは俺が全部やっておくから」
私はを止めました。
次に聞こえてきたのは、々しい義父の声でした。
「を……を呼べ」
胸をく掴まれたような覚がしました。
ところが夫は、その言葉をたく遮りました。
「には300万円を渡した。もう納得しています」
義父の荒い呼吸音が続きました。
「が……そんなことを言うはずがない」
「を返してきていないだろ。受け取ったってことは、納得したってことだ」
その瞬、全から血の気が引きました。
夫は、私が300万円を受け取ったという事実を利用して、義父に嘘をついていました。私が財産の処理に同し、もう義父に関わるつもりがないとわせようとしているのです。
入されてから、まだ数しか経っていません。
私は仕事でした。
返の続きをするなどないことを、夫は分分かっていました。
それでも私の沈黙を「同」にすり替えた。
私は扉をけて鳴り込もうとはしませんでした。コートのポケットへスマートフォンをく押し込み、静かに踵を返しました。
必なのはではありません。
医療関係者という第者の目と、客観な記録です。
ナースステーションへ向かうと、担当護師の林さんがいました。私は声を落とし、できるだけ事実だけを伝えました。
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「すみません。個ので夫が義父に、財産に関するらしい類へ署名を求めています」
林さんの表が変わりました。
「今ですか?」
「はい。義父は今救急搬送されたばかりです」
「しお待ちください。担当医と医療ソーシャルワーカーを呼びます」
数分。
私は林さん、主治医の先、医療ソーシャルワーカーの佐野さんと緒に病へ向かいました。
扉をけた瞬、目にび込んできた景に、私は息をのみました。
夫はベッドの脇にち、酸素マスクをつけた義父のを持ちげていました。その指先へ、無理にペンを握らせようとしていたのです。
私の姿を見た瞬、夫のからペンが落ちました。
「どうして来た?」
く鋭い声でした。
「来るなと言っただろ」
私は夫には答えず、義父の枕元へ歩み寄りました。
「お義父さん」
義父がゆっくり目をけました。
私を見た瞬、険しかった表がわずかに緩みました。
「……」
「もう丈夫です。今ここで何かを決める必はありませんから」
義父の皺だらけのが私の指を々しく握りました。そのたさをじた、胸の奥がく締めつけられました。
私はまだりませんでした。
夫が病へ持ち込んだ分い茶封筒のに、単なる預管理の類などではなく、私たち族の活そのものを壊しかねない契約が入っていたことを。
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義父・郎は、い、さな町を経営していたでした。
頑固で数がなく、がいいとは言えませんでしたが、困っているを放っておけないでした。22、私がと結婚した当初、義父は役所勤めの私を「役所のお嬢さん」と呼び、どこか距を置いていました。
その関係が変わったのは、義母が病気になってからです。
夫は「仕事が忙しい」の言で通院の付き添いを避け、治療の説にもほとんど同席しませんでした。私は休暇を使い、医療費の制度や介護サービスを調べながら、義父とつずつ続きをめました。
義母がくなった、役所の待で義父がさく呟いたことがあります。
「さん、悪いな。俺はこういう類はさっぱり分からねえ」
そのの義父は、で何もの職をまとめていた社とはえないほど背を丸めていました。
私はくに実父をくしています。だからなのか、ぶっきらぼうでも誠実な義父は、いつしか私にとって本当の父親のようなになっていきました。
を畳むの政続きも、の確認も、病院の予約も伝いました。
ただし、私が絶対に踏み込まない領域がつありました。
おです。
「財産はお義父さんのものです。どう使うかは、ご自分で決めてください」
私はいつもそう言っていました。
預通帳や実印を預かったこともありません。