"300万円の口止め料" 第1話
「には300万円を渡した。もう納得している」
病院の暗い廊で、私はたい壁に背を預けたままけなくなっていました。消毒液の匂いが漂う、しだけいた個の扉の向こうから、夫・の声がはっきりと聞こえてきたのです。
私は鳴り込みませんでした。泣き叫ぶこともせず、ただコートのポケットのでスマートフォンを握りしめていました。
画面には数に届いたばかりのからの通が残っていました。
振込額 3,000,000円。振込 。
病のベッドには、そのの昼に倒れ、救急搬送されたばかりの義父・郎が横たわっているはずでした。夫は、その300万円さえ払えば私が黙ってに戻り、義父の病にはづかないと本気でっていたのでしょう。
けれど、このの夫はまだりませんでした。
その300万円の入記録が、やがて夫自の嘘を崩していく最初の証拠になることを。
数、役所の福祉課で仕事をしていた私のスマートフォンが鳴りました。画面に表示されたのは、勤務にはめったに話をかけてこない夫の名でした。
「親父が倒れた。今、病院に運ばれて入院した」
いつも静というより、どこか事のような話し方をする夫の声が、そのだけはわずかにずっていました。
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私は反射に子からちがり、同僚に仕事を引き継ごうとしました。
義父が体調を崩すたび、病院の続きや付き添いをしてきたのは私でした。義母がくなってからは特に、通院の予約、薬の管理、介護保険の申請まで、義父に説しながら私がつずつ伝ってきたのです。
夫はいつも「仕事が忙しい」と言い、父親の通院に付き添ったことなどほとんどありませんでした。
「親父のことはに聞けば番よく分かる」
夫自が親戚のでそう言っていたほどです。
だから今回も、私がすぐ病院へ向かうのが当然だとっていました。
ところが、話の向こうから返ってきた言葉は予のものでした。
「仕事もあるだろ。今は来なくていい」
「でも、救急搬送されたんでしょう? 先から病歴を聞かれるかもしれないし、薬のことも――」
「いいって言ってるだろ」
夫の声が急にくなりました。
「親父は眠ってる。病院には絶対に来るな」
私はちがったままきを止めました。
「絶対に?」
「ああ。今は来るな」
話はそこで切れました。
胸の奥にさな違が残りました。義父の状態を配しているというより、私が病院へ来ることそのものを恐れているような調だったからです。
さらに、その違を決定なものにしたのが、話を切って数秒に表示されたからの通でした。
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300万円。
私はすぐ夫へ話をかけ直しました。
「このお、何?」
夫はしのを置いてから、ひどく事務に答えました。
「親父のことで、今まで世話をかけたからだ。受け取っておけばいい」
「こんなを突然?」
「いいから。その代わり、今は病院には来るな」
その言葉を聞いた瞬、私は役所の窓から見えるの空を見つめながら、つだけ決めました。
このおには、1円もをつけない。
謝のおではないことくらい、22も夫婦をしていれば分かります。夫は何かを焦っていて、この300万円は私を義父から引きすための具なのです。
定まで仕事を終えた私は、夫の命令とは反対に、まっすぐ病院へ向かいました。
義父本のを確かめるためでした。
私は22、福祉の仕事をしてきました。齢者虐待の相談、成見制度の案内、族による預の無断引きしなど、からは見えにくい問題を何度も目にしてきました。
判断能力が揺らいでいる齢者の周囲で、族が急に面会を独占し始める。
しかも、入院直という最も混乱している期。
そういう面では、ときにきなおがきます。
だからこそ、私は嫌な予を振り払うことができませんでした。
病棟へ着き、義父の個を探しました。扉は完全には閉まっておらず、細い隙から酸素マスクの「シュッ、シュッ」
という規則な音が漏れていました。
その直でした。
「親父、もう細かい判断は難しいだろ」