"ATM扱いされた父の正体" 第5話
だから個の父親としてではなく、投資会社を通して3000万円だけ入れた」
「裕介はっているの?」
「らない。資者名義はアセットマネジメントだし、実務は税理士と投資担当に任せていたからな。今は持分がまっているが、それでも議決権は18%ほどある」
私のに、玄関先で聞いた「ATMにもならない親」という言葉が蘇った。裕介が父親の資産をらなかったこと自体は当然で、それを理由に見すことの愚かさとは別問題だった。しかし自分の会社が創業に誰の支えでちがったかさえらず、その相を価値のない老と切り捨てた構図には皮肉をじずにはいられなかった。
博はさらに、机のへ別の資料を置いた。
「もうつある。メディテックの売の4割くを占める亜精グループとの取引だが、あれも最初の紹介は俺だった」
「じゃあ、あなたが切らせるの?」
私がになって尋ねると、博はすぐ首を横へ振った。
「そんなことはしない。個な喧嘩を理由に契約を切らせれば、俺自が会社を私物化することになる。そこまで落ちるつもりはない」
私はしだけ肩の力が抜けた。の玄関であれだけ侮辱された直であっても、夫がそこで線を越えなかったことに堵した。博はな報復ではなく、もっと別のことを考えていた。
広告
「ただし、親だからという理由で続けてきた支援は全部やめる。メディテックには来、追加資の請がているが、俺は応じない。それから創業に俺個がへ差し入れた3000万円分の保証も、次の更でしてもらう」
「そんな保証までしていたの?」
「裕介には言っていない。会社が軌に乗れば自然にすつもりだったし、親の力で成功したとわせたくなかったからな」
夫は息子を甘やかしたかったのではない。むしろ、できるだけ自分の力で歩かせるため、見えない所から最限だけ支えていた。それを息子本はらず、自分の力でここまで来たとい込んでいた。
さらに博は、最メディテックについてグループ内のコンプライアンス部から何度か懸ががっていたことをかした。納期遅延、残業代処理、経費計、取引先への説内容に問題があり、次回の契約更に審査が予定されていたという。これまでは「創業もない企業だから改善の会を与えるべきだ」と博自が審査会で見していた。
「俺が裕介の会社を潰す必なんてない。俺が庇うのをやめれば、会社は会社として評価される」
それだけだった。
だが、そのを理解した。
私は背筋がたくなった。
翌朝817分、私の携帯話が鳴った。表示された名は裕介で、昨夜あれほど「度と来るな」
広告
と言った息子から、半も経たないうちに話が掛かってきたことになる。私はし迷ったものの、博が「ていい」と言ったため通話ボタンを押した。
「母さん、父さんそこにいる?」
挨拶さえなかった。裕介の声はらかに焦っており、背からパソコンの通音や誰かの話す声が聞こえていた。昨までの尊な調とは別のようだった。
「いるけど、どうしたの?」
「朝で取締役会から連絡が来た。来度の追加増資が保留になったって。それにからも、個保証の更条件を見直すって言われたんだ」
私は博を見た。夫はダイニングテーブルで聞を広げ、普段通りコーヒーをんでいた。私と目がうと、何も言わずさく頷いた。
「父さんがやったんだろ?」
「私は詳しいことをらないわ」
「とぼけないでくれよ。アセットの実質オーナーが父さんだって、今朝CFOから聞いた。なんで今まで黙ってたんだよ」
私は昨の玄関で、裕介が父親へ「昔の肩きなんて価値がない」と言った面をいした。自分で必ないと切り捨てた相が、実は会社をから支えていたとったの驚きは理解できる。それでも私は、すぐ同する気持ちにはなれなかった。
「昨、あなたは何て言ったか覚えている?」
「今それどころじゃないんだよ」
「私たちはもう族じゃない。
いなくても何も困らない。そう言ったでしょう」
話の向こうが静かになった。