"膨腹の老人ホーム" 第4話
腹部膨満もよりく、事をほとんど取れないうえ、吐き気まで訴えている。
「今は病院へきましょう」
私はそう決めた。
施設側の許を待っているではない。
護職員へ状態を伝え、救急相談につなぐつもりで子へ移乗してもらった。ところが廊へた直、方からでづいてくる靴音が聞こえた。
「何してるの?」
振り向けば、神崎がっていた。
「梅さんの状態が悪化しています。護師にも報告して、医療関へ――」
「勝なことしないで」
神崎は私の言葉を遮り、子のハンドルをつかんだ。
「施設の許は取ったの?」
「緊急性があると判断しています」
「あなたにそんな判断をする権限ないでしょう」
声は抑えていたが、その目にはらかな焦りがあった。
私は歩も引かなかった。
「昨よりお腹が張っています。嘔気もあります。このまま様子を見ることには同できません」
すると神崎は、周囲にの職員がいないのを確認してから、梅さんの元へ顔をづけた。
「藤原さん、お孫さん、元気かしらね」
その瞬。
梅さんの体がくなった。
震える指が膝掛けをく握りしめたのを、私は見逃さなかった。
「神崎主任、今のはどういうですか」
私が尋ねると、神崎は何事もなかったように笑った。
「世話でしょう。それとも、あなたには何か別のに聞こえた?」
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梅さんを連れてくことはできなかった。
無理に引きえば、彼女が転倒する。
私はいったん子を戻したが、この点で腹は決まっていた。
もう施設内部だけの問題ではない。
へ助けを求めるしかなかった。
午10過ぎ、梅さんのシーツ交換へ入った私は、ベッドのにさな透片が落ちているのを見つけた。夜に見つけたものよりきく、何にも巻かれていたフィルムの部が裂けたような形をしている。端にはい状の付着物があり、私はすぐに清潔な袋へ入れた。
のさらに奥には、茶い液体が乾いたような跡も残っていた。梅さんによれば、け方にい吐き気があり、神崎がで処理したという。介護記録には、その事実も記載されていなかった。
「昨夜もまされたんですか?」
声で尋ねると、梅さんは涙を浮かべながら頷いた。
「昨はつだった。もう無理だって言ったら、をもっとめって……」
私はりで指先が震えるのをじた。しかし今ここで神崎に詰め寄っても、を救うことにはつながらない。必なのは、この袋との体を部の専に見てもらうことだった。
ところが正午、館内放送で全職員が堂へ集められた。
央には黒田と神崎が並んでいた。
私が入ると、神崎は待っていたように枚のコピー用を掲げた。
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そこには私が個にまとめていたの症状メモの部が写されていた。
「皆さん、聞いてください。佐藤さんが最、医師でもないのに入居者を勝に病扱いして、施設を混乱させています」
何かの職員が私を見る。
私はすぐに言い返したくなったが、神崎の狙いが分かった。
私を「い込みの激しい職員」にしておけば、あとで私が何を訴えても信用されにくくなる。
「私は診断していません。急激な体調変化を医療につなぐべきだと言っているだけです」
「またそれ?」
神崎は嘲るように笑った。
「あなた、自分を何だとってるの。医者? 研究者? ただの介護士でしょう」
黒田もをいた。
「佐藤君にはしばらく入居者への直接介助かられてもらう。静になるまで、清掃や備品理をに担当してもらおう」
それは事実、へづけないための命令だった。
私は歯をいしばりながら黙って受け入れた。
ここで解雇されれば、状況を確かめることさえできなくなる。
午、私は裏の排溝清掃を命じられた。11のたいが吹き抜ける、ゴム袋越しにものたさが指へ染み込み、施設の壁の向こうで何が起きているのか分からないだけが過ぎていった。
午2頃、台の黒いハイヤーが裏くへまった。
部座席からりてきたのは、40代半ほどの男性だった。
濃紺のスーツに鏡をかけ、周囲を確認しながらこちらへ歩いてきた。