"11年目のコロッケ" 第1話
「母親に男と逃げて捨てられた惨めな娘のくせに、このの財産にしでもをせるとっているの?」
義母の京子が吐き捨てた瞬、親族数が集まった広い座敷から笑い声が消えた。誰もが私――黒田み咲の方へ線を向けたが、そこに同はなく、あるのは好奇と侮蔑だけだった。
そのは父方の親族の法で、実の古い本には朝からが集まっていた。央には級な仕し弁当と酒が並び、父の健は座で親族たちに囲まれ、元の名士らしい穏やかな笑顔を浮かべていた。
では当たりのいい会社社としてられる父だったが、のでは全く違った。族に逆らう権利などないと本気で信じ、しでもに沿わないことがあれば鳴りつけ、には物を投げる男だった。
その隣に座る京子は、豪華な着物をまとい、まるで昔からこのの女主だったかのように振るっていた。
「本当にあなたを見ると裕子さんをいすわ」
京子は扇子をきながら、わざと親族全員に聞こえる声で続けた。
「健さんみたいな派な夫がいながら、のを盗んで若い男と駆け落ちした女。そんな母親の血を引いているんだから、あなたもいつか同じことをするんじゃないかって配なのよ」
周囲からさな笑い声が漏れた。
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「全くだ。裕子さんのせいで黒田の名にを塗られたんだからな」
酒で顔を赤くした叔父が頷いた。
「その娘を今まで置いてやっただけでも、健は分優しいよ。俺ならとっくに勘当してる」
私は座敷の端で、膝のの拳をく握りしめていた。
言い返してはいけない。
その習慣は、11から体に染みついている。
しでも反抗すれば、父か京子に腕を掴まれ、の奥にある暗くたいへ連れていかれた。窓もほとんどなく、湿った空気がこもるその部に何も閉じ込められる恐怖を、私は14歳の頃から何度もわってきた。
私が黙っているのを見て、京子はさらに勢いづいた。
「体あなた、もう25歳でしょう? それなのにまともな仕事にも就けず、の事務員なんて。まあ、仕方ないわよね。まともな母親に育ててもらえなかったんだから」
また笑い声が起こった。
私は唇の内側を噛みながら、11のあのをいしていた。
当、私は14歳だった。
実母の裕子は、いつも私を守ってくれた。
父が鳴り、皿を投げ、をげることがあっても、母はさな体で私のにった。夜になると私のベッドのそばに座り、震えるで髪を撫でながら、何度も謝った。
「ごめんね、み咲。お母さんがもっとければよかったのに」
「お母さんは悪くないよ」
「絶対にあなたを守るからね」
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あのも、夕方まではいつもと変わらなかった。
は気なほど赤い夕焼けに染まり、カラスの鳴き声がいつもよりきく聞こえていた。台所で夕を作っていた母は、突然エプロンをし、のカーディガンを羽織った。
「み咲、ちょっと夕飯のおかずを買ってくるね」
玄関で靴を履きながら、母は私に笑いかけた。
「お肉さんのコロッケも買ってくるから」
「うん。待ってるね」
私がそう答えると、母は度玄関のドアにをかけたあと、なぜか振り返った。
その瞳には、いつもの優しさとは違う何かがあった。寂しさと覚悟が入り混じったような、今でも忘れられない目だった。
「してるよ、み咲。何があってもね」
それが母から聞いた最の言葉になった。
数経っても母は帰らなかった。
夜になっても玄関はかなかった。
翌、警察への捜索願がされた。しかし母の方は分からず、数、父は親族を集めて言った。
「裕子は昔付きっていた男と逃げた」
父は庫のが空になっているところを見せた。
「現も持ちしている。俺たちを捨てたんだ」
私は泣きながら否定した。
母が私を置いていくはずがない。
母がを盗むはずがない。
だが父は、母の跡に見える置きまでした。
『探さないでください。しいを歩みます』
たちは皆、それを信じた。
さらに同じ頃、所にんでいた独男性の田まで姿を消したため、「裕子は田と駆け落ちした」