"聖火と十円玉" 第2話
午が過ぎ、のでは商のざわめきがきくなっていった。折、の丸を持った子供たちがっていく姿が窓の向こうに見えた。
正治は度だけ顔をげた。
青い空が、のさな窓いっぱいに広がっていた。
それから再び線を旋盤へ戻した。
その、誰も像していなかった。
京が歴史な1を迎えようとしていたこの、正治自もまた、族やの仲が20経っても忘れられない4へ踏みそうとしていることを。
昼を過ぎても、旋盤の音は止まらなかった。
にいた職たちは簡単な昼を済ませると、いつもなら煙を吸ったり、湯呑みをに世話をしたりするところだった。しかしそのは誰もが計を気にし、く仕事が終わらないかと落ち着かない様子でいた。
正治だけは違った。
作業台のには5個の完成品が並び、残るのは最の1個だった。
来がった部品をに取るたび、正治は布で油を拭い、ノギスを当てて寸法を確認した。わずかな狂いがあれば、そのまま置くことはせず、もう度旋盤へ戻した。
「佐伯さん、そこまでやるんですか」
若い職が呆れたように言った。
「向こうで入らなかったら、持っていったがないだろ」
「でも今ですよ」
「今だからだ」
正治の返事はかった。
社は事務机に座りながら、そんな正治を何度か見ていた。
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30以職を続けてきた男だった。
腕がいいことはもちろんだが、何より度引き受けた仕事を途で投げないところを、社は信頼していた。
その代わり、融通が利かない。
休めと言っても休まない。
体調が悪そうなでも、「けるうちは仕事できる」と言って械のにつ。
何度言っても変わらなかった。
午1をし過ぎた頃、最の部品の仕げに入った。
旋盤から細い属音が響く。
正治は顔をづけすぎないようにしながら、回転する部材を見つめていた。
誰も話しかけなかった。
やがて械が止まった。
正治は来がった部品をし、掌ので向きを変えながら確認した。
寸法を測る。
表面を布で拭く。
もう度測る。
そしてようやく、さく頷いた。
「終わった」
若い職が待っていましたとばかりにちがった。
「じゃあ今は解散ですね」
社も計を見た。
午140分。
「そうするか。これならまだにうだろ」
のに、気に軽い空気が広がった。
ところが正治は帰る支度をしなかった。
作業台に聞を広げると、6個の部品を1つずつ包み始めた。
「何してるんです?」
「届ける」
「佐伯さんが?」
正治は頷いた。
社がちがった。
「いや、今はいい。話して、誰か取りに来てもらうか、の朝で勘弁してもらえばいい」
「今欲しいんだろ」
「そうは言っても、今はも混んでる」
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「自転なら何とかなる」
正治は淡々と言った。
聞で包んだ部品を紐で縛り、さらに油をねる。のでも濡れないよう普段からしている包み方だった。
「会式、見ないんですか」
若い職が聞いた。
正治は着を取った。
作業着は油染みで黒くなっていたが、そのから着る古い着も袖が擦れていた。
「帰ってから見られれば見るさ」
「にわないですよ」
「仕方ない」
それだけ言うと、包みを自転の荷台に載せた。
社は入りまで追いかけた。
「本当にくのか」
「ああ」
「届けたらまっすぐ帰れよ。今はもうに戻らなくていいから」
正治は自転にまたがりながら振り返った。
「俺が届けてくる」
それが、の仲たちが聞いた最の言葉になった。
自転のペダルを踏み、正治は細いをっていった。
商へると、の周辺とは比べものにならないほどがかった。
族連れが歩き、軒先ではラジオが鳴っている。
「もうすぐだぞ」
「く帰らないと始まる」
あちこちで同じような声が聞こえた。
正治はを避けながら自転をめた。
急いでいるようには見えなかった。
ただ、荷台の部品がずれないよう折ろを確認していた。
ではその、社が戸締まりを始めた。
若い職たちは普段よりずっとく作業着を脱ぎ、それぞれテレビのあるや器へ向かっていった。
誰も正治を配してはいなかった。