"終電の風呂敷" 第2話
だからこそ、午1138分に現れる老婦は目についた。彼女は遅れることがなく、過ぎることもほとんどなかった。駅の計にわせているのかとうほど正確で、呂敷の結び目まで毎晩同じ形に見えた。
駅は原町駅から2駅先にある。戦、周辺に部品や属加のが次々と建てられたことで急速にが増え、駅名もそれにわせて付けられたという。朝夕のホームには作業姿の男女があふれ、方から京した若者たちのために男子寮や女子寮も建てられていた。
自も、集団就職で来た女を毎見ていた。まだ頬に幼さの残るが、親かられてきな鞄を抱え、駅での迎えを待っていることもあった。女子寮へ向かう女たちは、同じ形の布鞄を持ち、そうに周囲を見回しながら、それでも都会へ来た誇らしさを隠しきれない表をしていた。
あるの夕方、は駅へ類を届ける用事を頼まれた。そこではちょうど交代勤務の員たちが改札を通っており、ホームには油と属の匂いが漂っていた。若い女たちのには、より5歳も6歳もに見える女がなくなかった。
「この子たち、学たばっかりですよ」
駅の駅員が、の線に気づいて言った。
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にから来た子がいのだと説しながら、彼は改札を通る団に目を向けた。
「夜勤もやるんですか」
「によるけどな。忙しいところは遅くなる。今はどこも注文がいから、がりないんだ」
はその話を聞きながら、終の老婦をいした。へく理由が、そのものにあるのではないかという考えが初めて浮かんだ。けれど老婦に働ける齢とはえず、族がに勤めているのなら、なぜ毎晩なのかという疑問が残った。
そのの帰り、は駅をし歩いた。表通りには堂や雑貨が並んでいたが、その裏側へ回ると、造階建ての寮が何棟か建っていた。洗濯物が窓のに並び、女たちの笑い声が聞こえる方で、共同炊事のでは疲れた顔で洗面器を抱える者もいた。
の女が、入の階段に座ってを読んでいた。
封筒の裏には「田県」とかれていた。読み終えた女はしばらく便箋を畳めずに座っており、やがて袖で目元を拭ってから寮のへ入っていった。
は見てはいけないものを見たような気がして、歩く速度をげた。都会へて働くことは派なことだと聞ではかれていたが、その女の姿を見ていると、「の卵」というるい言葉だけでは説できないものがあるようにえた。
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原町駅へ戻ったのは午8過ぎだった。森田が事務で湯呑みに茶を注ぎながら、「はどうだった」と聞いてきた。
「若い子ばかりですね」
「今の京は、ああいう子らでいてるようなもんだ」
森田はそう言って茶をすすった、し考えるように続けた。
「でも、あの歳で親元をれるのは変だろうな。俺なんか15の頃は、まだ母親に弁当作ってもらってたよ」
その言葉が、の胸に残った。
午1138分。
その夜も、老婦がやって来た。
いつものの着物に、黒い羽織。紺の呂敷は、いつもよりし膨らんでいるように見えた。
「まで、枚お願いします」
は切符を差ししながら、彼女のを見た。齢のせいだけではなく、い事をしてきた特の節の太い指で、ところどころ赤く荒れていた。
そのが、呂敷を切そうに抱えている。
は再び尋ねかけたが、やめた。
事はそれぞれだ。
駅員が詮索することではない。
そう自分に言い聞かせた。
けれど、そのの最初のがった夜。
彼はとうとう。
老婦のを追うことになる。
12の半ば、昼過ぎから京の空は鉛に変わり、夕方には細かなが落ち始めた。積もるほどではなかったが、はたく、ホームにっていると制の襟元から容赦なく入り込んできた。乗客たちもにを急ぎ、午10を過ぎる頃には原町駅はいつも以に静かになった。
その夜、は急きょ終の内確認を伝うことになった。