"終電の風呂敷" 第1話
昭36の、京ののれにある原町駅は、都の駅とはまるで別のが流れているような所だった。駅には百と乾物、それにさな堂が軒あるだけで、そこからし歩けば畑と造宅が入り交じる景になる。がれば未舗装のにはたまりができ、の朝には畑のがくった。
駅舎も古かった。枠の窓での切符を売り、改札では駅員が鋏を鳴らして枚ずつ切れ込みを入れる。らしいといえば事務に置かれた油ストーブくらいで、夜になるとホームを照らす裸球の黄いが、えた線のに頼りなく落ちていた。
その駅に、の老婦が毎晩やって来るようになったのは、がまり始めた頃だった。齢は60代半ばほどで、の着物に黒い羽織をね、柄な体をしかがみにして歩いていた。にはいつも紺の呂敷包みを提げており、その包みだけはのものも変わらなかった。
彼女が現れる刻も、ほとんど決まっていた。午1138分、最終が原町駅に到着する10分ほどになると、待の引き戸が静かにく。老婦は誰とも話をせず、そのまま窓へ来て、銭入れから貨を取りした。
「まで、枚お願いします」
窓にいた若い駅員、修は、最初の数は何も気にしなかった。
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駅までは2駅先で、昼なら員や買い物客が頻繁に利用する区だったからだ。ただ、同じ老婦が毎晩、終だけを選んで乗るようになると、さすがに気になり始めた。
「また、あのお婆さんだな」
隣で帳簿をつけていた先輩駅員の森田が、ある夜さく言った。が頷くと、森田は窓のへ目を向け、ホームの端につ老婦を見ながら首を傾げた。
「昼は度も見ないんだよ。毎晩、終だけだ」
駅の周辺には、きな部品がいくつも並んでいた。度成期を迎えた京ではがりず、や陸から学を卒業したばかりの女が勢働きに来ていた。昼は活気のある町だったが、夜11を過ぎると商はすべて閉まり、の煙突と寮の窓かりだけが残る。
そんな所へ、老婦は毎晩向かっていた。しかも、必ずきな呂敷包みを抱えている。帰りのはもうないから、度終に乗れば、その晩はの町で過ごすことになるはずだった。
は何度か、呂敷のを像した。娘か息子のへ洗濯物を届けているのかもしれないし、夜勤の族へ弁当を運んでいるのかもしれない。あるいは、表向きには言えない商売でもしているのだろうかと、若い駅員らしい勝な像を巡らせることもあった。
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ただつ、議なことがあった。
老婦は帰りの切符を買わなかった。
翌朝の始発に乗って戻ってくる姿を見たという駅員もいなかった。にもかかわらず、次の夜になると午1138分きっかりに原町駅へ現れ、何事もなかったように同じ切符を買う。
「まで、枚お願いします」
その声を聞くたび、の疑問はしずつきくなっていった。
ある夜、切符を渡すにはい切って尋ねた。
「毎晩、ずいぶん遅くまで変ですね」
老婦は瞬だけ目を丸くしたが、すぐに穏やかに笑った。呂敷を両で抱え直し、「したことじゃありませんよ」とだけ答えると、改札へ向かった。
それ以は聞けなかった。
鋏を入れた切符を返すと、老婦はさくをげた。そのままホームの同じ所へち、やがて暗の向こうからづいてくる最終の灯りを待った。
は改札にちながら、紺の呂敷を見つめていた。
その包みが、なぜ毎晩終に乗らなければならないのか。
彼が答えをるのは、に入ってからのことだった。
が原町駅に勤め始めたのは、そののだった。20歳になったばかりで、実は埼玉の農だったが、兄がを継ぐことが決まっていたため、自分は鉄会社へ就職した。制を着て改札につ仕事には誇らしさがあったものの、夜勤務になると客もなく、若い彼にはがなかなかまなかった。