"福嫁の逆転茶屋" 第2話
い肌。
涼やかな目元。
歩けばが振り返る。
「泉のお」と言えば、会ったことのない者までっているほどだった。
宗介の胸が鳴った。
もし、おを妻に迎えることができれば。
客の目も変わる。
泡には美しい女将がいると噂になる。
の格もがるかもしれない。
何より、若旦としての自分の面目がつ。
「ありがたきお話にございます」
宗介がくをげると、兵は奥へ声をかけた。
「お。こちらへ」
ほどなく襖がいた。
現れた娘を見て、宗介は息を呑んだ。
噂以だった。
い肌は灯りのでも柔らかく見え、髪は美しく結われ、ち姿にはしの乱れもない。座敷のにのが輪咲いたようで、宗介は瞬、泡の女将として座敷につ彼女の姿までい浮かべた。
だが。
兵はおを見た、静かに首を振った。
「お、おではない」
宗介はを疑った。
「福を呼んできなさい」
おの元がほんのし歪んだ。
宗介へ瞥を向けると、何も言わずに席をった。
しばらくして、もう度襖がいた。
そこにっていたのは、宗介が像していた嫁とはまるで違う娘だった。
丸い頬。
ふくよかな肩。
体つきもきく、着物の線は柔らかな曲線を描いている。美しいというより親しみやすく、華やかというより温かな印象の娘だった。
娘は両をきちんと揃え、くをげた。
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「福と申します。どうぞ、よろしくお願いいたします」
声はさかった。
だが、議と聞き取りやすい、澄んだ声だった。
宗介は返事をするまで、瞬のをした。
――この娘が、私の妻に。
美しいおではない。
この、ふくよかな妹が。
胸の奥に、何かが沈んでいくのをじた。
それでも宗介は商だった。顔にすことだけはしなかった。
姿勢を正し、静かにをげた。
「宗介にございます。こちらこそ、よろしくお願いいたします」
その様子を見ていた兵は、まるで宗介の胸の内を見透かしたように目を細めた。
「宗介殿」
「はい」
「今は分からずともよい」
兵は娘たちがった、ゆっくりと言った。
「おは目を楽しませるだ。だが福は、のをき返らせる甘みを持っている」
宗介には、その言葉のが分からなかった。
ただ、父から受け継いだのために結んだ縁だ。
そう自分に言い聞かせるしかなかった。
それからもなく、宗介と福の祝言が泡でわれた。
親戚や取引先、昔からの馴染み客が座敷に集まった。倹約の世もあり、飾りてた宴にはしなかったものの、それでも若旦の婚礼とあって、誰もがしい女将を見るのを楽しみにしていた。
福が座敷へ入ってきた瞬、わずかなざわめきが広がった。
「まあ……」
「随分と福々しい嫁だこと」
「泉の姉娘は、あれほど美しいと聞いていたが」
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「若旦も、なぜ妹を」
声はさい。
けれど、福のにも宗介のにも届いていた。
福は俯いたまま、膝ので指をそっと握っていた。
宗介は隣からその姿を見ていた。
何か言、声をかけるべきだとった。
だが言葉がなかった。
なぜなら自分も、彼らと同じことをっていたからである。
美しい姉ならよかったのに。
そのいが胸の奥に残っている以、福を慰める言葉をにすれば、それは嘘になるような気がした。
祝言が終わった夜。
福は泡の奥の部で、自分が持ってきた荷物をほどいていた。
さな包みがいくつもある。
使い込まれた菓子型。
茶葉のりが染みた袋。
丁寧に乾かした柚子の皮。
干した栗。
豆を入れる箱。
価な嫁入り具など、ほとんどなかった。
宗介はしれたところに座り、その様子を見ていた。
福は荷物をしまい終えると、宗介へ向き直った。
「宗介様」
「何だ」
「の朝、お茶を入れてもよろしいでしょうか」
宗介はしにった。
「好きにすればいい」
声はたくしたつもりはなかった。
だが温かくもなかった。
福は静かにをげた。
「はい」
その夜、のにそれ以の会話はなかった。
翌朝。
宗介はいつもよりしく目を覚ました。
廊へると、台所の方から見慣れぬりが流れてきた。
湯の匂い。
茶葉の青いり。
そこへほんのし柚子が混ざっている。
何だろうとい、宗介が台所を覗くと、福が湯気の向こうにっていた。