"十六歳の毒薬花嫁" 第2話
と言うと、座敷にいた親類もさく頷いた。
凛は反論せず、度綿子をで押さえた。それから岩尾をまっすぐ見て、「つ、お尋ねしてもよろしいでしょうか」と静かに言ったため、誰もが顔をげた。
「礼とは、何のためにあるものでございましょう」
「の秩序を守るためだ」
「では、その秩序は何のためにございますか。父は、礼というものはをかすためにあるのであって、を追いすためのものではないと申しておりました。今この座敷にった嫁は私です。私を帰した、おじい様はどなたを若旦様の隣へ座らせるのでしょう」
岩尾の眉がわずかにいた。凛はさらに何か言うこともできたはずだが、そこでくをげ、「袖がければ折ります。子がずれるならで押さえます。それでも奥のの方がお待ちなら、私はここへ座ります」とだけ言った。
座敷には、鉢の炭がはぜる音だけが残った。しばらくして岩尾は度咳払いし、何も言わず座り直した。台所の入では、以野に仕えてきた女のキヌが掛けで目元を押さえていた。
度の盃が回り、湊は震えるで杯を持ちげた。凛は夫になる男のを見なかった。見れば、自分の指まで震え始めることが分かっていたからだ。
その夜、客が帰ると凛は台所へき、焚きのへ腰をろした。
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炊いた米と濡れた薪の煙が混じる匂いに、議と胸が落ち着いた。キヌが隣へ座り、「このには、蓋をしたままのものがうございます」と、誰に聞かせるでもなく呟いた。
「腐ったものは蓋をしても消えません。匂いがへこもるだけでございますよ」
凛はを見ながら、その言葉を胸に置いた。父も薬を見分ける夜にはよく焚きのそばへ座り、炎のを眺めながら考え事をしていた。で父を失って以来、凛はその背をいすたび、自分が何をしなければならないのかを忘れずに済んだ。
部へ戻った凛は帯を解き、着物の奥からのひらほどの箱を取りした。角は使い込まれて丸くなり、蓋をけると本のの針が然と並んでいる。その底には古びたが枚折り畳まれていたが、凛はかず、指先で箱の縁をなぞった。
野へ嫁いだ本当の理由を、まだ誰にも話すつもりはなかった。
凛が野へ入って数すると、敷ので誰が何を握っているのかが見え始めた。向きの商いを取り仕切っているのは、くなった先代の弟にあたる蔵という男で、体がきく、よく笑うわりにを見るだけ目がたかった。病に倒れた湊に代わり、から薬の仕入れと藩への納品、帳の入りまで事実すべて蔵が管理していた。
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「嫁が触れるのは奥向きだけでよい。薬蔵と帳にはづくな」
蔵は凛にそう言い渡し、反論を聞く気もないまま背を向けた。翌、廊ですれ違った蔵の息子・茂が、父とは対照な細い声で「義姉、父の言葉をすべて真に受けない方がよろしい」と告げた。になる茂は痩せ気で、眠れていないのようにいつも目のが暗かった。
そのの夕方、崎玄庵が診察に来た。玄庵はを過ぎた医師で、も通い続けているため澄から絶な信頼を寄せられていたが、湊の脈を取ったも「さらに細くなりました。これ以の薬はございません」と同じ説を繰り返した。
「もませて、なぜ度も良くならないのです」
澄が問うと、玄庵は眉つかさなかった。「それこそが難病というものでございます。には医術では届かぬ命というものがある」と答え、その言葉を縁側の柱ので聞いていた凛は、静かに線を落とした。
野で湊の薬が煎じられるのは台所だった。薬蔵から届けられた包みを働きの者が鍋へ入れ、玄庵から伝えられた分量で煮詰める。凛はの番を伝うふりをしながら毎その匂いを嗅ぎ、が変わるや鍋肌に残る澱まで覚えていった。
目、誰もいない隙に凛は柄杓でほんのし薬湯をすくった。
をまして唇へ触れさせ、舌の先で確かめた瞬、背筋にたいものがった。