"欠陥品と呼ばれた歌姫" 第9話
「良がいたから逃げなかった。夜勤して、昼寝て、しずつ音楽もやり直した」
恵の顔が歪んだ。
「今成功したから言えるだけじゃん」
「成功したから族になったんじゃない」
也は私を見る。
「何もなかったから、桃は俺たちの隣にいた」
その言葉を聞いて、私は13の朝をいした。焦げたトーストといインスタントコーヒーだけだったが、あの頃から私たちはしずつ族になり始めていたのだとう。
恵は今度は良を見た。
「でも私が産んだんだよ?」
良はしばらく黙っていた。
「それは謝してる」
恵の表がしるくなる。
「ほら」
「でも」
良は続けた。
「産んだことと育てたことは別でしょう」
妹の笑顔が止まった。
「私がしたに病院連れてってくれたのはパパとママだし、学でにられなくて泣いたに毎話聞いてくれたのもママ。いたいって言ったに夜まで録音付きってくれたのはパパ」
良は恵を責めるような調ではなかった。それだけに、言葉はかった。
「あなたがお母さんだって言われても、私にはいがない」
恵の唇が震えた。
「私だって々あったのよ。若かったし、おもなかったし、也だって売れなくて」
「そうなんだ」
「だから仕方なかったじゃん」
也が首を振った。
「違う。何もなかったから、俺は残った」
広告
恵は完全に言葉を失った。
しばらくして、今度は私を睨んだ。
「ずるい」
「何が?」
「お姉ちゃんばっかり」
声が震えていた。
「私よりだったくせに。男にもモテなかったし、子どもも産めなかったくせに」
私は良が何か言おうとするのをじ、腕へを置いて止めた。
「あなたが悔しいのは、私が何かを奪ったからじゃないでしょう」
恵が私を見る。
「自分が捨てたものを、13に見せられたからでしょう」
妹は言い返さなかった。
代わりに肩へかけていたバッグをく握った。すると良が、そのバッグを見て瞬眉を寄せた。
「それ、偽物じゃない?」
「は?」
「ロゴの位置ずれてるし、ステッチも変。友達が同じブランド好きだから分かる」
恵の顔が気に赤くなった。
「本物よ!」
「だったらいいけど」
良は興を失ったように肩をすくめた。
その反応が、恵には最も堪えたらしい。
「おがないのよ!」
突然叫んだ。
「どうして私ばっかり運が悪いの?」
私はしばらく妹を見た。
「運じゃないよ」
「何?」
「なくとも、良と也を捨てたのは運じゃない。あなたが選んだこと」
恵はもう何も言わなかった。
私たちはへ乗り、そこをれた。
バックミラーので妹の姿がさくなっていく。13、娘と夫を置いて自分からった恵が、今度は誰にも追いかけられず、でそこにっていた。
けれど、本当の問題は美容で終わらなかった。
広告
数、恵が私たちの活へもう度入り込もうとしていることが分かった。
美容で再会してから4、父から話があった。
普段ほとんど連絡してこないなので、画面に名が表示された点で嫌な予がした。「恵が来た」と聞いた瞬、その予は現実になった。
「何しに?」
「を貸してくれって」
父の話では、恵は私たちのから消えたあと、都内のや夜のを転々としていたらしい。何かの男性と暮らしては別れ、期は旅やブランド品の写真をSNSへ載せるような活もしていたが、定した仕事には就かず、最同棲していた男性からもをされたという。
「先から何度か来とった」
父はい声で言った。
「最初はし貸してやったんだが、また来てな。昨は切れのつもりでしめに渡した」
私は父を責める気にはなれなかった。昔はたいだとっていたが、困り果てた娘を目のにすれば、完全に見捨てることはできなかったのだろう。それでも、父は最につだけ私へ忠告した。
「桃、おら気をつけろ」
「何?」
「恵、也君が今どれくらい稼いでるか、良がネットでどれくらい気あるか、ずっと調べとる」
胸がざわついた。
その翌、良の名を検索していた也が、無言で私へスマートフォンを差しした。
画面には見覚えのないSNSアカウントが表示されている。
《気シンガーAIRAの実母です》
プロフィールを見た瞬、指先がたくなった。