"青いチョーク" 第5話
夫が好きだったあんパンをつ買った。
に戻り、茶を淹れて半分に割る。皮がく、にあんこがぎっしり詰まっている。
「本当だ」
私は呟いた。
夫はいつも「ここのは皮がいんだよ」と言っていた。
何回も聞いていたのに、私は度もちゃんと確かめたことがなかった。
でべたあんパンはし甘すぎた。
けれど、悪くなかった。
4になると、午の空気が柔らかくなった。私はほとんど毎のように壁へくようになったが、自分ではまだ「通っている」と認めたくなかった。スーパーへったついで、図館から帰る途、散歩の途に寄っているだけだとうことにしていた。
ところがある、文具のチョーク売りのにっている自分に気づいた。だけの箱、4、8、12と並び、そのに480円の12セットがあった。桃や、など、蒼太の缶には入っていないもある。
度は棚へ戻した。の壁へ落きをするために480円払うというのは、どう考えてもおかしい。しかし内を周してから、私はまた同じ所へ戻った。
結局、12入りを箱買った。
レジの員が袋へ入れようとしたので、「そのままでいいです」と断った。箱をに持ってをると、なぜかしい靴を買ったのような満があった。
壁へ着くと蒼太がすぐに気づいた。
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「買ったの?」
「そう」
「見せて」
箱をくと、蒼太はを本取りした。
「全部使わないでよ。480円したんだから」
「いじゃん」
「子どもはそういうこと言わないの」
「田さん、けち」
腹がったが笑ってしまった。
その、私は初めてを描いた。角い壁、角の根、つの窓と煙突。学でも描けるような単純なだった。
「田さんの?」
「違う」
「じゃあ誰の?」
「誰のでもない」
「んでないの?」
「絵なんだから」
蒼太は首を傾げた。
「つまんない」
「じゃああなたがめば?」
「やだよ。煙突ある、古そう」
子どもには慮というものがない。
それでも私はを消さなかった。誰もんでいないが壁に軒あってもいいような気がした。
次の曜、壁のに初めて見る父娘がいた。5歳くらいの女の子が、父親に見守られながら桃のチョークできなを描いている。
父親は私を見ると、「ここって描いて丈夫なんですか?」と聞いた。
返事に困った。
「本当は、分かりません」
正直に答えると、男性は笑った。
「ですよね。娘が保育園で聞いたみたいで。絵が描ける壁があるって」
絵が描ける壁。
いつのにか、そんな名がついているらしい。
「誰が始めたんでしょうね」
父親が何気なく言った。
私は答えず、最初の青い角を探した。周囲にはがなり、しれるとどれが最初だったのか分からないほどになっている。
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それが、なぜか嬉しかった。
自分の名を残したかったわけではない。私が始めたと言いたいわけでもない。むしろ誰が最初だったか分からなくなる方が、この壁には似っているとった。
そのの夜、美紀からメッセージが届いた。
《来週の曜、直連れてっていい?》
私はしばらく返信しなかった。
壁を見せたいとった。
同に、見せたくないともった。
娘に見せれば、「お母さん、しい趣ができたのね」と言われるかもしれない。その言で、このが何かきれいな名をつけられ、理されてしまう気がした。
私はまだ、これを趣とは呼びたくなかった。
30分ほどしてから、
《いいよ。昼べるなら何か作る》
とだけ返した。
翌週の曜、美紀と直は午11に来た。10歳になった直は、玄関に入るなり「Wi-Fiのパスワード何だっけ」と聞いてきた。
「まず、おばあちゃん久しぶりくらい言いなさい」
「先会ったじゃん」
「ヶは久しぶりよ」
ろで美紀が笑っていた。
昼にはちらし寿司を作った。では絶対に作らない料理だった。錦糸卵を焼き、老を茹で、絹さやを切った。
台所へ伝いに来た美紀が、「こんなに作ったの?」と驚いた。
「余ったら持って帰ればいいでしょう」
「お母さん、最ちゃんとべてる?」
またその質問だった。
「べてるわよ」
「より顔いいけど」
「じゃあいいでしょう」
「何かあった?」
私は包丁を止めた。
「何もない」
「本当に?」
「何かあった方がいいの?」
美紀はし困った顔をして、それ以聞かなかった。