"床下の学級日誌" 第2話
瞬黙る。
「……パン」
「ほら見てみい」
澄は呆れながらも、余った鯵の煮付けを包んだ。理子は毎回恐縮していたが、いご飯と緒にそれをべるのが本当に好きだった。
島の駐所に勤める清も、理子を気にかけていた。60歳をにした穏やかな巡査で、島では迷い猫探しから酔った漁師の喧嘩まで何でも相談される、警察官というより親戚のおじさんのようなだった。
「さん、これ作ってみたんです」
理子は々、澄に習った煮物を差し入れた。
「また先か。わしば太らせる気ね」
「奥さんにられます?」
「いや。嫁さん、先にべるばい」
そんな笑い声が駐所から漏れることも珍しくなかった。
がづく頃には、理子の腕はに焼け、島のを自転でる姿もすっかり常の景になっていた。老から読めないを頼まれれば読んでやり、若い母親から子育ての相談を受ければ緒に考えた。島のたちは々に「あの先は島の子になった」と言った。
ただ、その頃から澄はつだけ気になることに気づいていた。
浜辺で子どもたちを見守っている、理子が々、笑顔を消しての女を見つめていたのである。
女の名は島田美。
学2。
柄でしく、ほかの子がり回っているも、しれた所から見ていることがかった。
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実父を幼い頃にくし、母親と再婚相の義父・島田浩と、島のれにあるで暮らしていた。
理子は美をよく放課の教に残した。
叱っているわけではない。
きりで、静かに話していた。
教からてきた美は、いつも入っていったよりしだけ表が柔らかくなっていた。
ある夕方、澄は浜辺で子どもたちを見つめる理子に尋ねた。
「先、何か配事でもあると?」
理子は瞬驚いたあと、すぐに笑顔を作った。
「いえ。ちょっと考え事してただけです」
「ならよかけど」
澄はそれ以聞かなかった。
になって。
そのことを何度も悔することになる。
あのもうし尋ねていれば。
理子が見つめていた女の腕に。
制の袖では隠しきれないの痕があったことを。
もっとくることができたのではないかと。
6に入ると、相島は梅の湿った空気に包まれた。のがく垂れ込み、畳のは朝から濡れ、も鉛のようなになった。が止んでも潮には湿気がまとわりつき、教ののまでし膨らんだように軋んだ。
ある曜、体育の着替えをしていた美の腕を、理子は偶然見た。
肘からに、指でつかまれたような青の痣がつ並んでいた。
「美ちゃん、その腕どうしたの?」
理子が尋ねると、美は慌てて袖をろした。
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「転んだ」
「どこで?」
「の」
「痛かった?」
美は首を横に振った。
「もう痛くない」
それ以話そうとしなかった。
そのの放課、理子は美だけを教に残した。窓のではが細くり始め、くから連絡の汽笛が聞こえていた。
「らないから、先に教えてくれる?」
美は机に両を置いたまま、何も答えなかった。
「転んだんじゃないんでしょう?」
さな肩が揺れた。
「誰かにされた?」
美は唇をかんだ。
やがて、本当に聞こえるか聞こえないかほどの声で言った。
「言ったら、お母さん困る」
理子の胸にたいものが落ちた。
「誰に言ったら?」
返事はない。
それだけで分だった。
理子はそれから数、美の様子を注く見た。義父の浩が学へ迎えに来るは、美はらかに体をくした。ほかの子が「美、帰ろう」と声をかけても、浩の姿を見ると俯いたまま誰とも目をわせなくなった。
浩は40代半の漁師だった。
背がく、数がない。島民から特別嫌われていたわけではないが、酒をむと気性が荒くなることはられていた。妻とも暴力汰が原因で別れたという噂を、理子はになってにした。
だが、噂だけではけない。
理子は美の母親とも話した。
「最、美ちゃんし元気がないんです」
母親はらかに揺した。
「そうですか? じゃ普通ですよ」
「腕に痣がありました」
その瞬、母親の顔が張った。
「転んだんです。あの子、そそっかしいから」