"白木蓮の偽証" 第3話
黒瀬はそこで初めて気づいた。
自分は17、「泣いている母親」と「嘘をつく」を別々のものとして考えていた。
だが。
は泣きながら嘘をつくこともある。
しかも。
その涙そのものは、本物かもしれない。
5に入り、黒瀬と沢田は17の関係者をずつ訪ね始めた。柏尾町の駅商は当よりずっと寂れており、営業しているは半分にも満たない。シャッターのりた古い魚の裏で、当の主の妻だった堀美津という84歳の女性が暮らしをしていた。
「藤代さんのことなら覚えてるよ」
老女は玄関のがり框に座った。
「沢子さんはよくうちに来た。煮干しだの昆布だの、いものばかり買ってね。取り繕わないだったよ」
優との関係を尋ねると、美津はし考えた、「事にしとった」と答えた。
「の子じゃないのは町がってた。でもだからこそ、あのは懸命だった。優さんがに受かったなんか、うちのので泣いてたよ」
黒瀬はあえて尋ねた。
「その沢子さんが、優さんを殺した能性があります」
沢田が横で驚いた顔をした。
だが美津は驚かなかった。
「あるかもしれんね」
「信じられるんですか」
「だもの」
老女は杖を持ち替えた。
「を事にすることと、殺さないことは同じじゃないよ。追い詰められたら何をするかなんて、本にも分からん」
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そして続けた。
「でも、あのが優さんを事にしとったのも本当だよ。両方本当ってことはあるんだよ」
その言葉は黒瀬の胸に残った。
17の自分は、沢子が優をしていると信じた。だから殺すはずがないと考えた。
美津はちがりかけた黒瀬を呼び止めた。
「そういえば、あのに若い男が来てたね」
黒瀬のきが止まった。
「いつ頃です」
「優さんがいなくなるし。何度か見たよ」
30歳。
町のではない。
背は優よりしい。
いつも俯いて歩いていた。
「沢子さんに聞いたことがあるんだよ。あの若いは誰だって」
「何と?」
「親戚の子ですって」
17の捜査記録に、その男の記述はなかった。
へ戻った沢田はすぐにファイルを確認した。美津への聞き込み自体は確かにわれているが、記録には「特に変わったことなし」としかかれていない。
「黒瀬さんが聞いたんですか」
「ああ」
「なぜ男の話がなかったんでしょう」
黒瀬はハンドルへを置いたまま、しばらく黙っていた。
「私の質問が悪かった」
当の自分はこう聞いた。
――藤代で何か変わったことはありませんでしたか。
美津にとって「親戚の男が来ていた」ことは、変わったことではなかった。狭い町では、親戚が訪ねてくるなど珍しくもない。
「質問が曖昧なら、答えも曖昧になる」
黒瀬は呟いた。
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次にが訪ねたのは、当町内会役員だった吉岡という79歳の男性だった。
沢子は3、町内会の会計を担当していた。
「円も狂わなかった」
吉岡はそう言った。
「恐ろしいくらい几帳面なだったよ」
「几帳面?」
「いや」
吉岡はし考えた。
「違いを怖がるだった、と言った方がいいかな」
妻として町へ入った沢子は、周囲の線を常に気にしていたという。夫の政治は先妻をくした、幼い優を連れて再婚した。町の々はにこそさないものの、「から来た女が先妻の子をどう育てるか」をずっと見ていた。
「沢子さんが優君を叱ってるの、度も見たことないんだ」
吉岡は言った。
「子供なんて叱られるもんだろ。でもあのは絶対にで叱らなかった。叱ったら『継母だからたい』と言われるとってたんじゃないかな」
そのの夜、黒瀬は17の供述調を読み直した。
〈最初から度も儀なをきいたことはありません〉
〈邪をひけばお粥を作ってくれるような子でした〉
〈どこへってしまったのでしょう〉
沢子の涙をいした。
そしてもうつ。
彼女は当、優が実へ帰ってきた理由について、
「たまには顔を見せると、それだけです」
と答えていた。
34歳。
都内で忙しく働く弁護士。
平に休暇を取り、2泊3で野の実へ戻る。
「たまには顔を見せる」
それだけではすぎる。
黒瀬は17、その言葉をく追わなかった。
今度は追うことにした。