"身代わり妻の逆転帰還" 第1話
「科者のくせに、まだうちの息子と暮らす気なの?」
乾いた音が、玄関のたたきに響いた。
義母・子のが、私――佐藤由美の頬をいきり打ち抜いた音だった。じんじんとしたと痛みが、遅れての頬いっぱいに広がっていく。
私は靴を脱ぐことすらできず、そのにち尽くしていた。
2ぶりに戻ってきただった。
刑務所の鉄格子の向こうで、何度もに見た玄関。季節が変わるたびに、所したらここへ帰るのだと自分に言い聞かせてきた所だった。
けれど、そこに温かい迎えはなかった。
子のすぐ横には、見らぬ若い女がっていた。
肩まで伸びた髪をきれいに巻き、体の線が分かるるいのを着ている。狭い玄関には、その女がつけている甘いの匂いが充満していた。
彼女は私の赤くなった頬を見て、く元を緩めた。
そのさらにろ。
廊の壁に寄りかかり、腕を組んでいたのは夫の健だった。
「健……」
2ぶりに呼んだ夫の名だった。
けれど彼は私と目をわせなかった。ばつが悪そうに線をへ落とし、何か面倒な用事を片づけるのような顔をしている。
若い女が、子の腕をそっと引いた。
「お義母さん、あまり刺激しないでください。健さんが困ってしまいますよ」
甘ったるい声だった。
子は満そうに頷いた。
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「美さんの言う通りね。健、くこの女を追いしなさい。ご所に見られたら、うちの世体が丸つぶれよ」
美。
その名を聞いた瞬、胸の奥にさな違がった。
けれど私はまだ何も言わなかった。
鳴らなかった。
泣き叫びもしなかった。
ただコートのポケットに入っているスマートフォンを、静かに握りしめた。
所する、刑務所のので返されたばかりの携帯話。そのたい触だけが、今の私を現実につなぎ止めていた。
2。
私は夫の代わりに罪を被った。
き父が残した属加会社で、脱税と架空請求、正な資流用が発覚したのだ。
登記の代表取締役は私だった。
けれど、実質な経営はすべて健が握っていた。
経理もとのやり取りも、主取引先との交渉も、私は夫に任せきりだった。父がくなった、会社経営に疎かった私は、夫を信じることしかできなかった。
事件が発覚したあの。
健は私の元に座した。
「由美、頼む。俺が捕まったら会社は完全に潰れる」
青ざめた顔で泣いていた。
「は融資を引きげる。社員たちは全員に迷う。おなら初犯だし、形式の社だ。腕のいい弁護士をつければ、絶対に執猶予になる」
「でも……」
「親父さんの会社を守れるのは、おしかいないんだ」
き父の会社。
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その言葉をされて、私は何も言えなくなった。
父は代でさなを築きげただった。
油の匂いが染みついた青い作業着。
ひび割れた太い指。
鹸で洗っても落ちない黒い汚れが入り込んだのひら。
「由美、このはな、社員とその族の命を預かってる所なんだ」
それが父の癖だった。
私はその会社を守りたかった。
社員たちを守りたかった。
そして何より、健を信じていた。
だから私は、事聴取ので黙って責任を引き受けた。
けれど現実は、健が言ったほど甘くなかった。
事件の規模と額はきく、執猶予はつかなかった。
私は2の実刑判決を受けた。
普通の主婦だった私にとって、刑務所の活は言葉では表せないほど過酷だった。
には元から気がいがり、決められたに起き、決められたにべ、決められたに働く。自分のでけられる扉さえほとんどない。
夜になると、暗い井を見つめながらった。
これで本当に会社を守れたのだろうか。
健は頑張ってくれているだろうか。
子は体を壊していないだろうか。
最初の3か、健は面会に来た。
「会社は丈夫だ」
「配するな」
「もうしだけ頑張ってくれ」
そのたびに、私は救われた。
けれど4か目から、面会は急に減った。
「取引先対応で忙しい」
「との交渉がある」
「母さんの体調が悪い」
いろいろな理由がついた。
半を過ぎる頃にはも途絶えた。
それでも私は信じていた。