"午前3時の離婚届" 第1話
午317分。ベッドサイドのデジタル計が、暗い寝にたい青い数字を浮かべていた。私は横になったまま、隣の空いたベッドを見つめていた。夫の枕には昨夜までの浅いへこみが残っているのに、そこへ戻るはずの俊介は、まだ帰ってこなかった。
結婚して3。俊介が急な会議や張で夜になること自体は珍しくない。京の産会社「グループ」の代表取締役を務める彼は、事でも話本で席をつようなだった。それでも、連絡もなく朝まで帰らなかったことは度もなかった。
私は夜11から12回話をかけていた。しかし、呼びし音すら鳴らない。最に届いたLINEは午712分の「今は忙しい」というい文だけだった。
いつもなら、それでも私は待っただろう。
けれど、そのは違った。
の午、田が本へ戻ってきていた。
は俊介の学代の同級だった。正確には、私がずっと「俊介の初恋の女性」だとい込んでいただった。
俊介の斎の番の引きしに、枚だけ古い写真がある。桜が満の学構内で、いワンピースを着たが笑っていた。そのしろにつ俊介は、私が結婚してから度も見たことがないほど柔らかな目をしていた。
その写真を初めて見つけた、私は何も聞かなかった。
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過のことを詮索する女になりたくなかったし、はすでにで結婚していると聞いていたからだ。
ところが3ヶ、は婚した。
そして昨、本へ帰ってきた。
その夜、夫は帰らなかった。
偶然だと言い聞かせるには、もうつ気になることがあった。1週、俊介の斎へお茶を運んだ、閉じた扉の向こうから彼のい声が聞こえたのだ。
「ひとまず本へ戻ってこい。こっちのことは俺が何とかする」
私は扉のでち止まった。
俊介が誰かにそんな声をすのを、初めて聞いた。
静で、無駄な言葉を嫌い、私がをしたでさえ「薬をんで寝ろ」とを置くだけだっただ。母がくなったのことをいして泣いたも、数分だけ抱きしめると仕事に戻った。
私はい、そういうなのだとっていた。
表現が苦なだけ。
優しくできないのではなく、優しさのし方が分からない。
けれど、話の向こうの誰かに話す俊介の声は、驚くほど柔らかかった。
私はそこで初めて考えてしまった。
――このは、たいではなかったのかもしれない。
――私にだけ、優しくなかったのかもしれない。
ベッドをて、鏡のにった。
そこに映った自分を見て、私はしばらくけなかった。
腰まで伸ばした黒髪。肌のがないベージュのパジャマ。
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爪にはもなく、結婚に何本も持っていたぶりのピアスも、今ではさな真珠のものしか使わない。
3の私は、こんな女ではなかった。
髪は肩につかないくらいのボブで、るい茶だった。破れたジーンズでスクーターに乗り、鎌倉の沿いをるのが好きだった。インテリアデザイナーとして働き、現で職と論し、帰りに友とみにっては声で笑った。
俊介と結婚してから、しずつ変わった。
「黒髪の方が落ち着いて見える」
そう言われれば染め直した。
「の妻がいスカートで取引先に顔をすのはどうかとう」
そう言われれば箱にしまった。
義母の文子から「の嫁なら、夫がしてで仕事ができる庭を作りなさい」と言われ、私は仕事まで辞めた。
それでも幸だとはいたくなかった。
好きなのために変わることは、だとっていたからだ。
分に良い妻になれば。
そのうち俊介も私を必としてくれる。
そう信じていた。
午403分。
携帯話が震えた。
私は反射につかんだ。
俊介ではなかった。
Instagramの通だった。
田がしい写真を投稿していた。
京都の層ホテル。きな窓の向こうに、夜景が広がっている。窓際のさなテーブルには、つのワイングラスが置かれていた。
そのに。
男性用の腕計があった。
私は画面を拡した。
黒い文字盤。
い紺のベルト。
の結婚記、私が半かけて探し、俊介に贈った限定モデルと同じだった。