"特大おにぎりの恩返し" 第4話
最初は俺も理由が分からなかった。だが隣の席の女子が「ちょっと臭くない?」とを押さえたことで、ようやく気づいた。
亜美の髪はべったりしていた。いつも同じセーターを着ており、袖には汚れが残っている。
「シャンプーしてないんじゃない?」
誰かが笑った。
「汚い」
その言葉を聞いた瞬。
俺は机を叩いてちがった。
「やめろよ」
教が静まる。
「別におらに関係ねえだろ」
すると男子のが、面がるように言った。
「雅、亜美のこと好きなんだろ」
「は?」
「だからかばうんじゃん」
周囲から笑い声が起き、俺は顔を真っ赤にして否定した。亜美は俯いていたが、しばらくしてこちらを見て、さく「ありがとう」と言った。
放課。
俺はい切って聞いた。
「呂、入ってないの?」
言ったでひどく失礼な質問だとった。
亜美はらなかった。
「入れない」
「なんで」
「お湯がないから」
「壊れてる?」
「ガス、止まってる」
料が払われていないらしかった。
はるため、濡らしたタオルで体を拭いているという。洗濯も分にできず、学で臭いと言われていることは本も分かっていた。
俺はへ帰るなり、祖母に話した。
静はすぐに母と相談し、翌朝学へ連絡を入れた。
そこから先は、たちがいた。
担任。
。
役所。
児童相談所。
当の俺には名も役割もよく分からなかった。
広告
数、亜美の母親が学へ呼ばれた。
廊の窓から見えたその女性は、俺が勝に像していた「仕事で疲れ切った母親」とは違っていた。派なを着て濃い化粧をし、先に向かって何かをい調で言い続けていた。
それでも。
亜美の活はすぐには変わらなかった。
母親は「ちゃんとやっている」と主張したという。
しかし学側が庭訪問をい、蔵庫がほとんど空であることや公共料の滞納を確認したことで、事態はんだ。
12のある。
担任から告げられた。
「浅川さんは、おじいちゃんとおばあちゃんので暮らすことになりました」
亜美の祖父母は、滋賀かられた福井県にんでいた。
転。
その言葉を聞いた瞬。
俺の胸はひどくくなった。
亜美にとっては、今より良い活になる。
分かっている。
それでも。
いなくなるのが嫌だった。
最の。
亜美はしいセーターを着て学へ来た。
髪はきれいに洗われ、頬も以よりるく見えた。祖父母のへ先に送られていた荷物のから、しいを買ってもらったらしい。
「おばあちゃんち、毎お呂入れるんだって」
帰り。
亜美は笑った。
「ご飯もあるって」
「当たりだろ」
「私には当たりじゃなかったもん」
何も返せなかった。
の。
迎えのが待っていた。
「雅君」
「何?」
亜美はランドセルからさな袋を取りした。
広告
には。
梅干しの種がつ入っていた。
「何だよこれ」
「のおにぎりの梅干し」
「なんで持ってんだよ!」
「洗って取っておいた」
呆れて笑った。
「変なやつ」
「だって忘れたくなかったから」
亜美は袋を事そうに握った。
「お弁当も、ご飯べさせてもらったことも、雅君ののことも」
そして。
「いつか、ちゃんとお返しするね」
「別に返さなくていい」
「返すの」
「じゃあプリン100個な」
「っ」
笑った。
それから。
亜美はへ乗った。
「また会おうね!」
「ああ!」
「絶対だよ!」
「絶対!」
俺はが見えなくなるまでを振った。
その。
賀状は数続いた。
〈こっちはがいっぱいです〉
〈おばあちゃんの煮物がおいしいです〉
〈学で友達ができました〉
俺も部活や学のことをいた。
しかし学。
。
学。
お互いの活は変わり。
いつしか。
は止まった。
それでも。
あの梅干しの種を握って笑った亜美の顔だけは。
ずっと忘れなかった。
20が過ぎた。
俺は35歳になっていた。
父の会社を継ぎ、社になったものの、華やかな活とはほどかった。朝は誰よりく会社へき、夜は最まで残り、休も現の事故や取引先から話が入ればんでいく。
それでも太がいたから。
へ帰る理由だけは失わずに済んだ。
そんな頃。
会社にきな仕事がい込んだ。
内の古い商と周辺宅をまとめて再発する事業だった。
型スーパー、医療モール、集宅を組みわせた計画で、受注できれば会社の売はきく伸びる。