"部外者会長の逆襲" 第2話
けれど、私はすぐに会社へ訴えなかった。
証拠がりなかったからだ。
だけで訴えれば、「相性が悪かった」「受け取り方の問題」と処理される能性がある。だから私は、そのからさなノートを冊、鞄の奥へ入れるようになった。
付。刻。言われたこと。渡された仕事。残業。
誰かに復讐するためではない。
自分がいつか「そんなことはなかった」と言われないためだった。
獅倉の態度が骨になって半ほど経った頃、営業部へ卒社員の戸塚奈美が配属された。23歳で、るく懐っこく、初から獅倉へ「課、分からないので助けてください」と素直に言えるタイプだった。
に頼ること自体は悪くない。私もの頃は何度も先輩に助けてもらった。ただ、戸塚の、獅倉が彼女の仕事を引き取るのではなく、なぜか私へ回すことが増えていった。
「戸塚はまだだから、難しいところは井さんがやって」
「この案件の担当は戸塚さんですよね。まず本に確認させた方がいいといます」
「育成も先輩の仕事でしょ?」
そう言われて渡されたのは、見積の理程度ではなかった。営業本が先方へ確認すべき表現、提案文、競比較まで含まれていた。私が判断すれば責任だけが残る範囲である。
夕方5半、翌朝提の企画が本まとめて私の机へ置かれたもあった。
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担当者欄を見るとすべて戸塚の名だったが、本はすでにバッグを片づけている。
「戸塚さんは?」
「今は帰らせる。疲れてるみたいだから」
「私は末処理が残っています」
「井さんは慣れてるだろ」
戸塚は数メートル先で同僚と笑いながら帰り支度をしていた。
結局、そのも私は残業した。
午9を過ぎ、最のデータを保した、獅倉が横を通りながら言った。
「普段からもうし周りを見ていてくれれば、評価しやすいんだけどな」
私はを止めた。
「今、戸塚さんの案件を件処理しましたけど」
「そういう言い方するから怖いって言われるんだよ。輩に優しくしてやれよ」
その夜、私はノートにしいページを作った。
《業務配分》。
自分の残業だけでなく、本来の担当者、依頼刻、提期限までくことにした。
夫の航平は、私が何か記録していることには気づいていた。しかし詳しく聞こうとはしなかった。へ帰れば仕事の話をしないという、私たちの暗黙のルールを守っていたのだとう。
それでも、ときどき彼はさな言葉をくれた。
の型案件で、営業側が作った提案資料を私が夜遅くまで直したもそうだった。数字の根拠を最データへ入れ替え、競比較を理し、先方が迷いそうなポイントを先回りして順番まで組み直した。
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翌朝、航平は私の席へ来ると、誰にも聞こえない声で言った。
「昨の資料、すごく見やすくなってた。ゆかりが直したんでしょ?」
「並べ替えただけだよ」
「その並べ替えが事なんだって」
それだけ言って、彼は営業席へ戻った。
自分の仕事を見ているがいる。その事実だけで、肩に乗っていたものがし軽くなった。
ところが、そのの午、提案を終えて戻った獅倉は嫌だった。
「今の会議、かなり応えあったわ」
「さすが課ですね!」
戸塚が笑顔で応じる。
別の営業社員が、「比較表、かなり分かりやすかったです。課が作り直したんですか?」と尋ねた。
獅倉は瞬も迷わなかった。
「まあな。昨、ちょっと残って直しておいた」
私は画面を見たまま、指だけが止まった。
その比較表を作ったのは私だ。獅倉は昨、定に会社をている。
さらに獅倉は、戸塚の肩を持つように言った。
「最、戸塚にも資料の見せ方を教えてるからな。若いのに吸収いよ」
戸塚が、「私はそんなに何もしてないですよ」と言いながら笑う。完全には否定しないところまで、獅倉に気に入られる方法を覚えたらしい。
航平がを挟んだ。
「今回の最終版は、井さんがかなりを入れてくれていますよ」
獅倉の笑顔が消えた。
「ああ、まあ、俺の指示でし伝ってもらったよ」
私は顔をげた。
「比較表と導線図は、私が元データから組み直しました」
「分かってるって。チームの成果なんだから、そんな細かく誰がやったとか言わなくていいだろ」