"部外者会長の逆襲" 第1話
私の名は井ゆかり、28歳。広告代理「央アドプランニング」で営業事務をしている。結婚の戸籍の姓は夫と同じ国枝になったが、会社では入社から使っている井姓をそのまま名乗っていた。
広告業界と聞くと、華やかな企画会議や撮現を像するがいかもしれない。けれど実際には、締め切りまでに数字をわせ、何もの関係者へ確認を取り、営業がで困らないよう資料のさな穴をつずつ埋める仕事が半だった。私は昔からで目つより、誰かが気づかないところをえる方が性にっていた。
夫の国枝航平とは、入社目にりった。つの営業職で、忙しいほど声を荒らげず、失敗した輩をで責めないところに惹かれた。交際を始めて、私が27歳のに結婚したが、同じ部署だからこそ職では必以に夫婦らしく振るわないことをで決めていた。
そんな私たちの職が変わったのは、に獅倉隆司という男が営業部の課として異してきてからだった。
獅倉は36歳。初対面では誰にでも笑顔を向け、部の肩を気軽に叩くような、当たりのいい司に見えた。だが、ヶもしないうちに、その笑顔が自分に従うへしか向けられないものだと分かった。
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最初にじた違は、私との距のさだった。
「井さんって昼、いつもなの?」
あるの昼、獅倉はわざわざ私の机まで来てそう聞いた。私は見積の数字を確認しながら、「によりますけど、お弁当なのでのこともいです」と答えた。
「じゃあ今度、でランチこうよ。課として部の話も聞きたいしさ」
「お気持ちはありがたいですけど、昼はで休みたいので丈夫です」
そのは、それで終わった。
ところが翌週には残業のみに誘われ、その次には休の予定を聞かれた。断っても「じゃあまた今度」と笑って済ませ、こちらの拒否を拒否として受け取ろうとしない。
「今週末、何してるの?」
「で過ごします」
「彼氏と?」
「私活のことなので、お答えしません」
すると獅倉は、いかにも冗談だという顔で笑った。
「いなあ。井さんって、もうちょっとげした方が得だよ」
その言葉が決定だった。
私は仕事をするために会社へ来ている。司からげを評価してもらうためではない。
そのの締め、獅倉はまたコップのコーヒーを持って私の机へ来た。翌提の請求資料が件なり、私は画面から目をす余裕もなかった。
「今こそ杯だけ付きってよ。30分でいいから」
「お断りします」
「またまた。そんな警戒しなくても」
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私はそこでキーボードからをし、初めて正面から獅倉を見た。
「警戒しています。業務に関係のないお誘いを何度も受けて困っていますから、今は控えてください」
周囲の空気が止まった。
獅倉の笑顔が消えたのは、ほんの瞬だった。
「別に、そこまで言わなくてもよくない?」
「何度お断りしても続くので、必だとってお伝えしました」
獅倉は何も言わず、自分の席へ戻った。
翌から、私に戻される類の数が増えた。
「これ、見づらい。やり直して」
机に放り投げられた資料を確認しても、どこが悪いのか分からない。修正点を尋ねれば、「そのくらい自分で考えて。社会でしょ」と返ってくる。
別のには、営業側だけに共された納期変更が私へ伝えられず、直になって数字がわなくなった。確認のためにり回った末、「変更があるなら事務にも共してください」と伝えると、獅倉は呆れたように肩をすくめた。
「そこまで面倒見きれないよ。自分で報取りにかないと」
「共されていない変更をどうやってるんですか?」
「そういうところなんだよなあ。井さんって融通利かないよね」
断った。
だから嫌われた。
その構図が見えるまで、はかからなかった。
それから獅倉は、私が聞こえる距でを言うようになった。「がない」「話しかけづらい」
「ああいう女は仕事しにくい」。仕事の正確さではなく、獅倉にとって扱いやすいかどうかで評価されているのだとうと、腹の底がえた。