"200円の家族" 第4話
親子が戻ってきたのは、それから30分ほどだった。
美咲はスーパーの袋を両に持ち、桜はさな袋を抱えている。翔太が玄関をけると、桜が嬉しそうに袋を持ちげた。
「お豆腐買ったよ」
「そうですか」
「桜が選んだの」
美咲はし笑った。
翔太の部に、それまでほとんどなかった活の音が増えていった。
台所から包丁がまな板へ当たる音が聞こえ、鍋から湯気がつ。桜は母親の隣で、さなで玉ねぎの皮を集めたり、器を運んだりしていた。
翔太は机へ向かっていたが、法律の文字になかなか集できなかった。
やがて部に、醤油と噌の混ざった温かなりが広がった。
「できましたよ」
美咲の声に振り返る。
さなテーブルのには肉じゃが、噌汁、炊きたてのご飯が並んでいた。
翔太はその景を見つめたまま、瞬けなかった。
庭で作られた料理を目のにするのは、5ぶりだった。
「翔太さん、座ってください」
美咲に促され、翔太は席についた。
桜が両をわせた。
「いただきます」
美咲も同じようにをわせる。
翔太だけがかなかった。
「翔太さん?」
「……事を始します」
そう言って箸を持った。
美咲の顔に、瞬だけ寂しそうなが浮かんだ。
だが何も言わなかった。
肉じゃがをへ運ぶ。
柔らかく煮えたじゃがいもに、肉と玉ねぎの甘みが染み込んでいる。
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翔太は無識に箸を止めた。
「翔太お兄ちゃん」
桜がこちらを覗き込む。
「何ですか?」
「おいしい?」
「必な栄養素が分に含まれています」
桜は満そうに頬を膨らませた。
「そうじゃないよ」
「何がですか?」
「おいしいかどうか聞いてるの」
翔太は答えられなかった。
おいしい。
その覚は確かにある。
しかしそれをにすることに、なぜかい抵抗があった。
5、自分のからできるだけ排除してきた言葉だった。
桜は首を傾げた。
「翔太お兄ちゃんって、ロボットなの?」
翔太のが止まった。
田にも同じことを言われた。
だが学の友から言われるのと、5歳の子供に真顔で言われるのでは、じ方が全く違った。
「桜、そんな失礼なこと言っちゃ駄目よ」
美咲が慌てて娘をたしなめる。
しかし桜は納得しなかった。
「だって笑わないし、泣かないし、おいしいとも言わないもん」
そして真っすぐ翔太の目を見た。
「ねえ、翔太お兄ちゃん。どうして笑わないの?」
翔太は黙った。
「楽しくないの?」
答えがない。
法律問題なら、どれほど難しくても論点を理できる。
しかし、なぜ笑わないのかと聞かれると、のが真っになった。
夕、美咲と桜はシャワーを使った。
久しぶりに温かい湯を浴びたのか、桜は嫌で髪を乾かしてもらっていた。翔太は机へ向かっていたが、々聞こえてくる親子の会話へ識が引かれた。
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「ママ、ここあったかいね」
「そうね」
「今、おで寝なくていい?」
その瞬、美咲の声が止まった。
しを置いて、優しく答える。
「うん。今は丈夫よ」
翔太はペンを持つに力を入れた。
親子が布団へ入った、部は静かになった。
翔太は再び勉へ戻った。
しかし条文を何度読んでも、桜の「どうして笑わないの?」という言葉がかられなかった。
夜2頃。
突然、泣き声が響いた。
翔太は子から振り返った。
「やだ……パパ来ないで」
桜が布団のでうなされていた。
「ママをいじめないで……」
美咲が慌てて娘を抱きしめる。
「桜、丈夫。丈夫よ。パパはいないから」
しかし桜の体は震えていた。
翔太はちがった。
まずに浮かんだのは、理ストレスによる眠障害の能性だった。
「いストレスによる夜驚や悪の能性があります。定した活環境が必です」
事務な言い方だった。
美咲は泣きそうな顔で娘を抱いたまま答えた。
「分かっています。でも……どうすることもできなくて」
その言葉に、翔太は何も返せなかった。
しばらくすると桜の震えは収まり、再び眠った。
美咲は娘の髪を何度も撫でていた。
翔太は机へ戻った。
何事もなかったように法全をく。
だが、文字はほとんどへ入ってこなかった。
翌から、3の奇妙な同居活が始まった。
翔太は学へ通い、美咲は仕事を始める準備と、政への相談をめた。
桜は保育環境がうまで、美咲と緒にしたり、翔太の部で絵を描いたりして過ごした。