"16回の拒否" 第1話
「嫌がるほど、綺麗に撮ってあげたいんですよ」
黒田正は、きなレフを胸のに抱えたまま、得そうにそう言った。
62歳。会社を退職してからは、域のサークルや交流イベントへ積極に顔をし、趣の写真を楽しんでいる独男性だった。数、「老にも何か楽しみが必だ」といってレフを購入して以来、黒田は自分にはの魅力を写真に残す力があると信じていた。
「僕が撮れば、写真が苦なでも『撮ってもらってよかった』ってなりますから」
目のにいたみさ子は、困ったように顔をそらした。
58歳。淡いグリーンの着を着た、物静かで落ち着いた雰囲気の女性だった。
「写真を撮るのは構いませんけど、SNSには載せないでくださいね」
みさ子は穏やかな調で、しかしはっきりと伝えた。
ところが黒田はカメラをろさなかった。
「丈夫ですよ。変な写真は載せませんから」
乾いたシャッター音が、のに響いた。
みさ子の顔から、それまで浮かんでいたわずかな笑みが消えた。
だが黒田は、その変化に気づかなかった。
むしろ液晶画面へ線を落とし、「うまく自然な表が撮れた」と満していた。
この、黒田が参加していたのは、域の初者向けハイキングサークルだった。
葉でられるいの遊歩を2ほど歩き、途の展望広で昼を取る。
広告
本格な登ではなく、季節の景や参加者同士の会話を楽しむための集まりだった。
サークルそのものの登録者は100を超えていたが、毎回の歩きに参加するのは10数程度だった。
集所には、50代半から70代ほどまでの男女が集まっていた。
ほとんどのが持っているのは、景を記に撮るためのスマートフォンくらいだった。
そので、黒田だけが首からきな黒いレフをげている。
肩には交換レンズの入ったカメラバッグまで掛けていた。
軽い歩きに持ってくるには々げさな装備だったが、黒田自はその格好を気に入っていた。
周囲の参加者とは違う。
自分だけが、本格に写真を撮れるに見える。
それが黒田にはよかった。
発の10分ほど、代表の吉岡子が参加者たちへ声をかけた。
「せっかくなので、皆さんで1枚撮りましょうか」
1の男性がスマートフォンを取りした。
すると黒田が、すぐにへた。
「せっかくですから、僕が撮りますよ」
胸元のレフを持ちげながら、黒田は笑った。
「スマホだと、どうしても平面になりますからね」
スマートフォンをした男性は瞬戸惑ったものの、結局それをポケットへ戻した。
「じゃあ、お願いします」
参加者たちは、登の板のへ並んだ。
黒田は脚をて、カメラを固定する。
広告
「もうし央へ寄ってください」
全員がしずついた。
黒田はファインダーを覗き、すぐに首を横へ振る。
「いや、今度は寄りすぎですね。へし広がってください」
また全員がく。
「背のい方はろへお願いします」
1の男性がろへがった。
「その子、顔にがますね。せますか?」
言われた男性は何も言わず、子を脱いだ。
「さんは、もうしへお願いします」
みさ子も言われた通りにしいた。
黒田は何度もファインダーを覗き直した。
「皆さん、もうし自然に笑ってください」
ところが「笑って」と言われた瞬、参加者たちの表はかえってくなった。
黒田はそれを見て、軽く笑った。
「笑ってと言われて笑うと、どうしても作った顔になるんですよね」
そう言いながら、なかなかシャッターを切らない。
吉岡が腕計を確認した。
「黒田さん、そろそろ発しましょうか」
「あと1枚です」
ようやくシャッターを切ったとえば、黒田は撮った写真を確認し、また首を横に振った。
「せっかく撮るなら、で皆さんがぶ写真にしたいですからね」
参加者たちは、もう度並び直した。
何かはすでに苦笑していたが、黒田にはそれが満だとは分からなかった。
しくらいが掛かっても、綺麗な写真を残した方がいい。
今は面倒にじても、から見れば必ずぶ。
黒田は本気でそう信じていた。
ようやく撮が終わり、は遊歩を歩き始めた。