"愛人旅行の代償" 第5話
「できるよ。お母さんのなんだから」
結は言い切った。
その言葉は、美の胸の奥に静かにを灯した。
このを守ってきたのは自分だった。
ならば、このをどうするかを決める権利も、自分にある。
そのの午、美と結は産業者に連絡を取った。必な類を確認し、具や私物の扱いについて相談し、秀治の私物を勝に捨てないよう保管所を確保する段取りもつけた。
「全部写真を撮って、倉庫へ移す。から何か言われても、こちらは順を踏んだと示せるようにする」
結は淡々と言った。
美は頷いた。
「分かったわ」
夕方、秀治が帰宅した、美は普段通り夕をした。
秀治は何も気づかず、織との旅先の話ばかりしていた。
「向こうのホテルはが見えるらしい。織が選んだんだ」
「そう」
「帰ってきたら、すぐにこのを片づけるぞ。織がみやすいようにしないとな」
「こののことは、私が決めていいのね」
「何度言わせるんだ。好きにしろ」
美は静かに頷いた。
その言葉も、しっかり記録に残した。
秀治と織がへ発つ朝、美は駅の改札まで見送った。
見送りにく必など、本当はなかった。だが、美には確認しておきたいことがあった。最に、秀治自のからもう度言わせる必があった。
駅の構内は朝の波でざわついていた。
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スーツケースを引く旅客、勤途の々、産袋を抱えた族連れ。そんな、秀治と織はまるで婚旅にでもくように並んでっていた。
織はるいの旅バッグを持ち、髪をきれいにえていた。秀治は美に向き直ると、当然のように言った。
「帰ったら、きちんと判を押せよ」
「ええ。帰ってから話しましょう」
「の片づけも始めておけ。織がみやすいようにしろ」
美は秀治の顔を見た。
「こののことは、私が決めていいのね」
秀治は苛ったように眉を寄せた。
「何度言わせるんだ。好きにしろ」
織が旅バッグを軽く引き寄せながら笑った。
「美さん、寂しくなっても秀治さんに話しないでくださいね」
「しません」
美は静かに答えた。
「事な連絡は、面でします」
「面って、随分いんですね」
織はさく笑った。
美は織の目を見た。
「いのは面じゃありません。都の悪い話から逃げるのです。鍋で煮ても柔らかくなりません」
織の笑みがわずかに固まった。
秀治は舌打ちをした。
「最まで嫌な女だな」
「最かどうかは、帰ってから分かります」
美がそう言うと、アナウンスが流れた。秀治は腕計を見て、織の背にを添えた。
「こう」
織は美を瞥し、改札の向こうへんでいった。
2の背が混みに紛れて見えなくなるまで、美はそのにっていた。
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姿が完全に消えた、美はスマートフォンを取りし、結に話をかけた。
「結、今お願い」
話の向こうで、結はすぐに答えた。
「分かってる。業者さんも来るよね」
「ええ。荷物は勝に捨てない。全部写真を撮って、倉庫へ移す」
「それでいい。お母さんのなんだから、ちゃんと順を踏めばいい」
美は駅のへた。
朝のが眩しかった。
夫がと旅へった朝に、こんなに空がれているなんて皮肉だとった。けれど、そのるさは議と美を責めているようにはじなかった。
むしろ、もう分だと背を押してくれているようだった。
昼過ぎ、さな産の担当者がへ来た。
担当者は落ち着いた男性で、類を確認しながら何度も美にを確認した。
「本当に売却でよろしいですか?」
「はい」
美はリビングを見回した。
秀治が座っていたソファ。
古くなった器棚。
何度も磨いた。
娘の結が幼い頃にり回っていた廊。
いはある。
けれど、そのいのに、秀治は織をまわせようとした。
「古いですし、もう守る相を違えたくありません」
美はそう言った。
担当者はく頷いた。
「解体、更で引き渡す形でめます」
「お願いします」
その、業者が次々と来た。
具の写真を撮り、秀治の私物は箱に詰め、リストを作って倉庫へ移した。
美のものは結のとな保管先へ運びした。