"夫の顔と20年目の罪" 第4話
それでも、幸恵さんがいない夜は細かった。
今は真さんと2きり。
そううと、胸が落ち着かなくなった。
幸恵さんが帰った、部のは急に静かになった。くで器が触れう音がした。包丁がまな板に当たる音も聞こえる。どうやら夫がキッチンにっているらしい。
しばらくすると、ふわりといい匂いが漂ってきた。
「この匂いは……」
私はわず笑顔になった。
「カレーライスだ」
好きなカレーの匂いだった。
夫に促され、私はダイニングの子に座った。スプーンをに取り、慎にに運ぶ。
べた瞬、わず頬が緩んだ。
「美しい……すごく美しいです。もっとべたいです」
子どものようにはしゃいで言うと、向かい側からさな吐息が聞こえた。
笑ったのだろうか。
夫は何も言わず、私の皿におかわりをよそってくれた。カレーの温かさが、胸の奥まで広がっていくようだった。
私はもっと話をしたかった。
20のことを覚えているのか聞きたかった。ガーベラのことも、あのの言葉も、今の私を支えてきたのだと伝えたかった。
けれど夫は、私が事を終えるとすぐにちがった。
「仕事の準備がある」
くそう言って、自分の部へ戻ってしまった。
科医の夫は、々難しい術を控えているらしい。その準備があるのだと聞いていた。
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忙しいのなら仕方ない。私は自分にそう言い聞かせた。
夫は寡黙だった。
結婚してからも、必最限のしか私と過ごしてくれなかった。朝く勤し、夜遅く帰宅する。にいても自にこもり、医学を読んだり資料を確認したりしているようだった。
寂しかった。
けれど、嫌われているようにはえなかった。
毎、夫は私を気遣うメッセージと束を、幸恵さんに託してくれたからだ。
「はるかお嬢様。今も真様からおが届いていますよ」
ある朝、幸恵さんがるい声でそう言った。
「今はガーベラですねえ。とてもきれいに咲いております」
私は子に座ったまま、差しされた束にそっと触れた。びらは柔らかく、茎はしっかりしていた。を見ることはできない。けれど、きっと美しいのだろうとった。
「ねえ、幸恵さん」
「はい」
「ガーベラの言葉って、何かってる?」
「さあ、じげませんわ。なんですの?」
私はしだけいたずらっぽく笑った。
「自分で調べてみて」
幸恵さんのさな笑い声が聞こえた。
何もらないが見れば、目が見えない私に毎違うを送り続ける夫のことを、議にうかもしれない。
けれど私には、夫のメッセージが束に込められているような気がしていた。
言葉がなくても、彼は私を切にってくれている。
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私はそう信じていた。
それから1ヶほど経ったある、私はたまたまく帰宅した夫に会うことができた。
ここしばらく、夫はきな術の準備で激務が続いていた。まともに言葉を交わすこともできず、私はずっと寂しさを抱えていた。
玄関の扉がく音がして、革靴がを踏む音がづいてくる。
「お帰りなさい、真さん」
「ただいま」
いつものようにい返事。
夫は私のを軽く撫で、そのまま自へ向かおうとした。
その背をじた瞬、私はわずちがった。
「真さん」
しでも緒にいたかった。
私は勇気を振り絞り、夫の背にそっと抱きついた。
顔は見えなくても、彼が戸惑っているのが分かった。体がほんのしばり、呼吸が乱れる。
私は臓の音を聞かれそうなほど緊張していた。
「真さんのお部で寝てもいいですか」
結婚してから、私は度も夫と緒に眠ったことがなかった。
夫は度も、私に触れようとしなかった。
私にとっては、精杯の誘いだった。
けれど夫は、私の肩を優しく押し戻した。
拒絶ではない。
乱暴でもない。
けれど、確かに距を置かれた。
触れてほしい。
あなたの温もりをじたい。
喉までかかった言葉を、私はみ込んだ。
夫が困惑しているのが伝わってきたからだ。
彼が私に触れようとしないのは、私が盲目だからなのかもしれない。
だとしたら、とてもしい。
こんなにもしているのに。
私は無理に笑った。
「ごめんなさい。困らせちゃいましたよね」