"夫の顔と20年目の罪" 第2話
もう度だけ、やってみよう」
私はすぐには返事ができなかった。
けれど、父は私が笑顔を取り戻すことを諦めなかった。
翌から、父が見つけてきた講師による特別なトレーニングが始まった。楽譜を指で読み取る練習、鍵盤の位置を体で覚える練習、音だけで曲の構造を理解する練習。
最初は何度も泣いた。
うように弾けず、鍵盤のでが迷い、昔の自分との差に苦しんだ。
それでも私は毎必に練習した。
母の音を忘れたくなかった。
父をしませたくなかった。
そして何より、暗のでも自分のを諦めたくなかった。
盲目でありながら名ピアニストになれたのは、決して奇跡ではない。
血の滲むような努力の結果だった。
そんな私を見守ってくれていた父は、1、病気で界した。
父がいなくなった敷は、母を失ったと同じくらい寂しかった。
父の会社の継者になったのは、父の兄、つまり私の叔父だった。
父が私を継者にしなかったのは、私にピアニストとしての活を続けてほしいという優しさだったのだとう。
けれど、叔父は違った。
父の葬儀が終わってもない頃、叔父は私に向かってない言葉を吐いた。
「娘が盲目って、あいつも災難だったな。俺が会社を継ぐしかないよな」
私は子のでを握りしめた。
広告
叔父は、盲目の私を疎ましくっていた。
その空気は、見えなくてもはっきり分かった。
そしてある、叔父は私に縁談の話を持ってきた。
それが、私のをきく狂わせる始まりだった。
「相の名は、桜田真だ」
叔父は応接の革張りの子にく座り、類をめくりながらそう告げた。
私は向かいの子に座っていた。隣には、私の世話をしてくれている政婦の田幸恵さんが控えていた。彼女の気配がそばにあるだけで、私はし落ち着くことができた。
「桜田真さん……ですか」
「10歳の科医だ。桜田病院の跡取り息子らしい」
叔父の声には、すでに決定事項を伝えるような響きがあった。
私は膝ので指を絡めた。
「おじさま、私、いきなり結婚だなんて困ります」
「まあ、そう言わずに話を聞け」
叔父は軽く笑った。
「相は名病院の跡取り息子だ。しかも、おが昔入院していた病院なんだろう?」
私は息を呑んだ。
桜田病院。
それは、私が8歳の、事故で失した際に入院していた病院だった。
「そこの息子がおのコンサートを見て、ファンになったらしい。こんないい話はないぞ」
「でも……」
私は言葉を濁した。
見ずらずの男性と突然結婚するなど、考えられなかった。私は盲目で、普段の移にもの助けが必だった。ピアニストとして台につことはできても、活の全てをで成りたせることは難しい。
広告
そんな私が、よくらない相と庭を築けるのか。
は尽きなかった。
けれど叔父は、私の気持ちなど最初から聞くつもりがなかった。
「田の婆さんを世話係につけてやるから、おとなしくこの話に乗れ」
その言葉に、幸恵さんがさく息を呑む気配がした。
叔父の圧力はかった。
父がくなり、会社の実権は叔父に移っている。私がく拒めば、今の活やピアニストとしての活にも響がるかもしれない。そううと、私は何も言えなくなった。
この結婚話が、盲目の私を厄介払いしたい叔父が無理やり見つけてきたものだとるのは、もうしのことだった。
田幸恵さんは、私がまれたから敷で働いている政婦だった。
母がいた頃から私を見守り、事故で失してからは、私の目となってどこへくにも付き添ってくれた。コンサート会への送迎、装の準備、楽での移。私がなく演奏活を続けられたのは、幸恵さんのがあったからだ。
「幸恵さんが緒なら、なんとかなるかな」
私はそう自分に言い聞かせた。
突然決められた結婚でも、きなに押しつぶされずにいられたのは、幸恵さんへの絶な信頼があったからだった。
それから、私と桜田真は形式な顔わせを済ませた。
初めて会った、私は幸恵さんにを引かれて応接に入った。
革靴の音がづき、男性のい声が聞こえた。