"湖底の五本柱" 第20話
龍鳴寺のあった所には巨な陥没穴が残り、展望台は途で壊された台を晒したまま、事用シートに覆われていた。
ダム堤体は、いつ崩れるか分からない危険なバリケードとして、を塞ぎ続けていた。
藤は警察を辞めていた。
あの事件の、層部との対は避けられなかった。ダム建設に関わる正と隠蔽を暴いたことで、政治や建設会社だけでなく、警察内部にも波紋が広がった。
だが、それだけが理由ではなかった。
止められなかった犠牲。
見抜けなかった30の真実。
そして、最にダムを破壊されるまでの計画を完全には止められなかったといういが、藤のにく残った。
彼は辞表をした。
誰もく止めなかった。
その、藤は1でフェンスのにち、廃墟となったダムを見つめていた。
が底を吹き抜ける。かつて面だった所にはが広がり、そこに浅いたまりが点々と残っている。肌には解けの跡が筋となって残り、くでカラスが鳴いた。
5つの柱。
黒田剛作。
田。
佐藤。
寺武。
そして茂蔵。
彼らの命を吸ったコンクリートの塊は、墓標としてそこにあり続けている。
き残った最の柱である相馬賢は、医療刑務所の独で、今も壁にダムの絵を描き続けているという。
「が来る」
「鐘が鳴る」
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そう呟きながら、爪で壁を引っかき、何度も同じ図を描くのだと、藤はづてに聞いていた。
藤はコートのポケットにを入れた。
そこから、古びた懐計を取りす。
龍鳴寺の跡で相馬が握っていた、茂蔵の計だった。
本来なら証拠品として保管され続けるはずのものだ。だが藤は退職の際、どうしてもこの計だけを元に置いておきたくなった。
計は止まっている。
針は午245分を指したままだった。
あのの、全ての歯が狂い始めた。
藤は親指で蓋をけ、内部の文字盤を見つめた。
「。あんたは満か」
に向かって問いかけた。
返事はない。
ただ底を吹き抜けるが、ひび割れたコンクリートの隙を通り、ひゅう、とい音をてた。
それはまるで、底に眠る茂蔵が静かに笑っている声のようにも聞こえた。
は永になる。
の言葉は、皮肉な形で現実となった。
ダムとして能していれば、やがてが溜まり、改修され、代と共に姿を変えていったかもしれない。だが、この壊れたダムは誰も触れることのできない負の遺産として、半永久にこのに残されることになった。
30の罪。
のの惨劇。
そして、ダム建設に群がったたちの欲。
それらすべてをコンクリートのに封じ込めたまま、鏡は沈まず、消えず、ただ傷跡として残り続ける。
藤は計を握りしめ、もう度だけダムを見げた。
夕が亀裂の入った堤体を赤く染めていた。
その赤は、あの、のに流れた血のをわせた。
やがて藤は踵を返した。
背で、カラスがもう度鳴いた。
鏡失踪事件。
図から消えるはずだったが、最に放った命がけの抵抗。
底に沈むはずだった歴史は、今、巨な碑となって、愚かなたちを見ろし続けている。