"湖底の五本柱" 第19話
が仕掛けたアナログタイマーは、最のデジタル制御システムの裏側、物理な配線の隙に寄するように組み込まれていた。
それは古びたゼンマイ式のキッチンタイマーを改造したような、あまりにも原始な代物だった。
しかし、その接点はダム堤体の臓部である圧排ポンプの制起回に直結していた。
「切るぞ。どれだ」
藤が叫ぶ。
「待ってください。に切断すると、フェールセーフが働いて逆に即起する能性があります」
技術者の声が震えた。
はダムの構造だけでなく、気系統の盲点まで熟していたのか。あるいは相馬の設計図から点を盗みしていたのか。
タイマーの音が、藤のには神の音のように聞こえた。
カチ。
カチ。
カチ。
「残り1分」
藤は決断した。
「メインブレーカーを落とせ。全源を遮断しろ」
所が振り返った。
「そんなことをしたら、位監もゲート制御も全て失います。ダムが盲目になりますよ」
「崩壊するよりましだ。やれ」
所は震えるで緊急止レバーにをかけた。
そのだった。
タイマーがけたたましいベルの音を鳴らした。
10分が経過したのだ。
所がレバーを引きろすのと、くで音が響き始めたのは、ほぼ同だった。
ドン。
元から突きげるような衝撃。
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照が消え、非常用の頼りないだけが残る。
「源は落ちたはずだ」
誰かが叫んだ。
だが音は止まらなかった。
「嘘だろう……」
技術者がにを当て、絶望した声をげた。
「ポンプが回っています。非常用ディーゼル発が直結されていたんだ」
源を落とすことさえ、は計算に入れていた。
最部、50メートルの没したゲートの奥で、巨な圧ポンプが唸りをげ始めた。本来、堤体内部の浸透を排するためにあるそのポンプは、今、逆回転でを吸い込み、逃げのない監査廊内部へ猛烈な圧力でを送り込んでいた。
「逃げろ。堤体が割れるぞ」
藤が叫び、全員がへびした。
はすでに夜の帳がりていた。
満々とをたたえたダムは、かりので黒い鏡のように静まり返っている。だがその内側では、コンクリートの鳴ががっていた。
巨な岩がこすれうようなな音がに響いた。
ダムの表面、のコンクリート壁に、蜘蛛の巣のような亀裂がり始めた。そこから圧のがのように吹きす。
「内部圧力が設計限界の3倍を超えています」
所が叫んだ。
藤はにそびえる巨な壁を見げた。
崩れるのか。
もし今これが決壊すれば、数億トンのが鉄砲となって流のを襲う。数千の命が危険に晒される。
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「頼む。持ちこたえてくれ」
藤は祈るように拳を握りしめた。
その、ダムの央部から鳴のような轟音が響いた。
ばきり、と巨なコンクリート片がび、面へ崩れ落ちる。亀裂は気に広がり、ダムの端が歪んだ。
だが、崩壊はそこで止まった。
完全決壊ではなかった。
の狙いは、をで押し流すことではなかったのだ。
内部から過剰な圧力をかけることで、ダムの構造度を決定に破壊し、2度と修復能な状態にする。
それが彼の最の処刑だった。
ポンプの音が止まった。
過負荷に耐えきれず、焼き切れたのだろう。
静寂が戻った。
しかし、ダムは無事ではなかった。
無数の亀裂からが流れ落ち、巨な建造物が血を流して泣いているような姿になっていた。
もはやを貯める能はない。
発もできない。
治もできない。
そこにあるのは、莫な税との命をみ込んで作られた、巨な産業廃棄物の塊だけだった。
藤はそのに膝をついた。
守り切ったのか。
それとも敗したのか。
流のは無事だった。
だが、鏡ダムという国プロジェクトは、この夜、完全にんだのである。
事件から1。
鏡ダムはち入り禁止区域に指定され、厳なフェンスで囲まれていた。
ダムのは全確保のためにほとんど抜かれ、かつてのの跡が再びのから姿を現していた。
だが、そこにが戻ることはなかった。
の台だけが黒ずんだのに並び、崩れた垣がに覆われ始めていた。