"嘘葬りの豆腐店" 第3話
あの部だけはだめなんだよ。お願いだから」
叫び声を背に、ショベルカーが古いボイラーのい壁へ突っ込んだ。
ガラガラと音をてて壁が崩れ、錆びたトタン根が滝のように落ちた。さらにショベルカーの刃が面を掘り返し、分いコンクリートの層にい込む。
ひびがった。
割れたコンクリートがめくれがる。
その隙から、何かいものが見えた。
運転が異変に気づき、エンジンを切った。
「……なんだ、あれ」
彼は席からり、煙のを覗き込んだ。づいた瞬、顔から血の気が引いた。
「骨だ」
その声は、ひどくさかった。
褪せた柄のスカーフが、い骨のそばに絡みついていた。やがて鑑識が慎に掘りめると、細いの部分が見つかった。
そのには、さなの指輪が握られていた。
息子の1歳の誕に贈られた、さな指輪。
美が、最までさなかったものだった。
通報から30分、パトカーが激しいサイレンを鳴らしながら商に到着した。
黄い規制線が張られ、々はそのから息をひそめて現を見つめた。豆腐の裏は、もうただの制執現ではなくなっていた。
規制線をくぐり、1の刑事が現へ入ってきた。
藤刑事、48歳。
現経験のいベテランだった。派なきはないが、目だけは鋭かった。
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の表、息遣い、線の逃げ方を見落とさない刑事だった。
「現保はできてるか。鑑識は呼んだな」
藤は周囲を見渡しながら尋ねた。
した骨のでを止めると、彼の目がすっと細められた。褪せた柄のスカーフ、さな指輪、崩れたコンクリート。そこに残されたものは、6も閉じ込められていた沈黙だった。
藤は次に、のにへたり込む静を見た。
静は魂が抜けたように遺骨の方を見つめていた。唇は刻みに震え、両は掛けを引きちぎるほどく握りしめられていた。
そして藤の線は、壁際の徹也へ向かった。
徹也は顔を背け、遺骨の方を必に見ないようにしていた。まるで目に入れた瞬、取り返しのつかない何かが起こるかのように。
2の反応は対照だった。
藤はその奇妙な反応を、静かに目に焼きつけた。
彼の脳裏に、6の記憶がよみがえった。
美という嫁が、突然姿を消した事件。男を作って夜逃げしたという族の証言。駅で見らぬ男と緒にいたという友の目撃談。
当、警察はく疑わず、単純なとして処理した。
藤自も、その記録を見ただけで終わらせていた。
「あの、もっとく掘っていれば」
藤はスカーフを見つめたまま、く呟いた。
「やっとに帰ってこられたな。随分といおかけだった」
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そのの午、警察署の刑事課の片隅に、埃をかぶった古い段ボール箱が置かれた。
藤は箱の蓋をけた。乾いたと湿気の混じった匂いがをつく。茶く変した類の束のから、彼は「1991」とかれたファイルを取りした。
「美失踪事件捜査記録」
古びたタイトルが、藤の目を刺した。
鏡をかけ直し、類を1枚ずつめくる。記録の文字は淡々としていたが、その内容はあまりにもずさんだった。
届、徹也。
失踪者の妻が幼い子を置いて夜逃げした。
族の証言を元に、男を作って逃げたと判断。
藤はで笑った。
「男を作って逃げただと。これを鵜呑みにして捜査を終わらせたのか」
ファイルのほどに挟まっていた目撃者の供述が目に留まった。
「駅で美が見らぬ男と緒にに乗ってっていくのを見た」
藤は目撃者の元を確認し、机を拳で叩いた。
「目撃者ってのは、徹也の元の同級じゃないか。裏をわせたな」
隣の席の輩刑事が驚いて顔をげた。
当の警察は、この見え透いた話を裏付けもせず、美を「子どもを捨てた母親」として処理していたのだ。
藤は類を閉じ、席からちがった。
「これは捜査じゃない。ただのき取りだ。最初から洗い直すぞ」
藤が向かったのは、事件現ではなかった。
まず駅のだった。
過の捜査で見落とされていた融記録こそ、決定ながかりになる能性があった。